第6話<アルバム>

 母・和美は買い物に行ってしまったようだった。

 周りを見渡すと、テレビの上に小さい頃の美咲の写真が飾ってある事に気付いた。
 いつもテレビの前にはいるのだが、詳しく写真を見ることはなかった。

 それを境に昔のアルバムを見ようと思った美咲は、二階に行き自分の部屋へと向かい探し出した。
 しかしすぐには出てこなかった。
 やっと見つけ、本棚の一番上に手を伸ばした。

「届かない…」

 美咲は意地でも椅子に乗って取ろうとはしなかった。
 特に意味は無い。面倒臭がりな部分があるからだろうか。

 そしてアルバムに手をかけ、思い切り引っ張った。

 少しホコリがかぶっていたようで、美咲は『あとで掃除しなきゃな…』と悲しい気持ちになっていた。

 アルバムは2,3本一緒に落ちてきた。
 その他に写真が一枚床にあるのを見た。
 美咲はそれを手にした。


「あ。これ幼稚園の頃の…」

 そこには男の子と、女の子の二人だけが映っている写真だった。
 女の子はもちろん美咲だ。

「この男の子…名前なんだったっけなぁ?」

 その男の子の正体はわからなかったが、美咲はそれを自室に飾る事にし、ベッドの横に置いた。

 そして、元の場所に戻り一つのアルバムに手を伸ばした。

「あ、これは…中学生の頃のだ…」

 仲の良い友達グループとの写真が多かった。
 修学旅行など旅行に行ったときの写真もあり、美咲は懐かしげに見ていた。

 そして、次のアルバムに手を伸ばした。

「これは小学生時代か」

 美咲の小学生の頃は、活発な女の子だった。
 放課も男子に混じって遊んでいたことを思い出した。
 もうそんな体力はないな…とまた悲しげに思った。

「最後は、幼稚園かな?」

 そう思い、最後のアルバムを開けた。

「…何コレ…」

 そこに写真は一枚も無かった。
 あった、と思えどそれは美咲ただ一人のものだけだった。

 当時、美咲の曖昧な記憶の中でも写真は結構撮っていたはず。
 幼稚園の先生だってよく撮ってくれた。
 とても不可解に思える。
 しかし、この時はあまり気にはしなかった。

 ベッドの横に飾った写真の男の子の正体もまた、そう気にしなかった。

 美咲はアルバムを今度は椅子に乗って片付けていた。


 美咲の眠るベッド横に飾ってある写真。

 男の子と、女の子がカメラに向かって笑っている写真。
 もちろんのこと、女の子は美咲だ。
 しかし、男の子は思い出せなかった。

 それはしょうがない。
 もう10年以上も前で、しかも当時は4歳頃。
 記憶は曖昧のハズだ。


 その日の夜。

「ん…」

 美咲は夢の中にいた。


『みーちゃん、みーちゃん』

 夢の中は何もない場所だったが、ただその声だけが響いていた。
 かすかな声で、男の子の声だ。
 何度も呼んでいる。

 そのときだった。
 美咲の口が動く。

「…みー君」

 もちろん無意識だ。

『みーちゃん…』

 その男の子の声は消えた。



 その瞬間、美咲は起き上がった。

「みーちゃんって…私か」

 ベッドの横の写真を見た。

「みー君って…この男の子…?」

 美咲は少し幼稚園の頃の記憶を取り戻していた。
 名前の初めを伸ばして「美咲」が「みーちゃん」。
 ならば「みー君」の初めの文字も「み」かな。

 しかし、幼稚園の記憶など取り戻しても。
 そう思い、美咲は考えるのをやめてしまった。


 夢から覚めた美咲は、熱っぽい事に気付いた。
 しかし、気にせず学校へ直行した。

 普通に授業を受けていた美咲だったが、やはり限界が来た。


 次の授業は教室ではなかったため、移動していた美咲。
 人目につかない階段に座り込んだ。

 充と付き合っていると言われてから、友達が激減。
 その為、今も一人で行動していた。
 今まで一緒に行動していた詩織も、違う友達と行動している。

 次の授業が始まるチャイムが鳴る。

 『ああ、ダメだ。保健室に行くにも行けない…ここで休もうかな』
 人目につかない為、誰もここを通らない。
 もちろん美咲のクラスで遅刻をする者などいないだろう。



「あれ、松尾は?」

 それは美咲のクラスで、授業の先生が生徒に問いかけた。
 越川と充だけが、あたりを見回した。

 やはり、美咲を不幸にしたがる充でも、美咲がいないことに気になっていた。

「誰か、どこにいるか知らないか?サボりか?」

 越川と充が立ち上がった。
 越川は「美咲はそんなヤツじゃない」と言い、出て行く。
 充はそれよりも前に、無言で出て行っていた。

 クラスメートは「どうしたんだろう」というひそひそ話を始める。



「美咲ー!!!」

 越川と充が探しに出ていた頃、美咲は階段で横たわっていた。
 美咲はとにかく楽にしていたかった。

「美咲!」

 美咲を先に見つけたのは充だった。
 額に手を当てる。

「熱だ。保健室行きだな。」

 越川はそれを珍しそうにみていた。
 充がこんなにも美咲を心配しているのに驚いたからだ。
 越川は、美咲にとって充は良い存在でないと思っていたからでもある。

 美咲を抱きかかえた、越川に向かいこう言う。

「俺はこいつを連れて行く。先生に言っておいてくれ」

 充は背を向けてゆっくりと階段を降りていった。

 越川はゆっくり元いた教室に向かう。

 『どうなってるんだ…?橋川は本当に美咲が好きなのか―?』



第七話…大変です!美咲ちゃんが風邪ひいちゃいました…
日頃のストレスからでしょうね…
充は少々責任を感じたようで、美咲ちゃんを家まで送り届けるのです。
次回は二人の転機です。ぜひぜひお読みくださいまし
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