第48話<告げる想い> | ||||
詩織が別荘を出るのと同時に別荘内に入り込んだ充。 「詩織ー?」 別荘内で美咲が詩織を探していた。 「あ…お兄ちゃん…」 美咲は空気が重くなるのを感じた。 昼間、あんなことがあったのだから― 「詩織ちゃんならさっき健司と出てったぞ」 聞かれもしないのに、美咲の疑問に答えを出す充。 「そっか…」 ということは別荘内で充と二人きり… 美咲は今、充と二人きりにはなりたくなかった。 「詩織ちゃんに話でもあったのか?」 「え…」 確かに美咲は昼間のことで詩織に相談をしていた。 いつも心配してくれていた兄があの場面を見て去るのはありえた。 だからこそ、謝りたかった。 本当に浅はかなことをしたと自分でも分かっている。 伸也に昨日言った。 『結局自分の気持ちに嘘をつけないでしょ?』 それを今、身を持って知ったのだ。 「あ、あのね…昼のことだけど…ごめん」 充は驚いた。 まさか謝られるとは思わなかった。 謝る美咲は下を向いたまま。 やっぱり美咲は美咲だ。 考えなしにあんなことしないし、優しいんだ。 充は謝ったままの美咲を抱き締めた。 「お兄ちゃん?」 「どうしてお前が謝るんだ?」 「だって…嫌だって思ったもん…お兄ちゃんに嫌われたら―」 愛する人に抱き締められるのに嫌な気はしなかった。 美咲が充を抱き締め返すと同時に、充が口を開いた。 「愛してる―」 ただ一言だった。 美咲に迷惑だと思っていた… 言いたくて言いたくて、仕方なかった言葉。 美咲は驚いた。 充の顔を見ようと、彼の体から離れようとしてもさせてくれない。 ぎゅっと美咲を抱きしめたままなのだ。 『愛してる』 何よりも彼の口から聞けたのが嬉しくて… だけど、まさか。 美咲はそう思わずにはいられない。 「ちょ…お兄ちゃん、どうしたの?」 また美咲は充から離れようとした。 すると、今度は素直に離れてくれた。 「ごめん迷惑だったな… でもお前にちゃんと自分の気持ち、伝えられてよかった。 俺はお前の優しさにいつも支えられた。 お前にとっちゃ俺は"兄"でしかない。 だから自分の気持ちをずっと隠して、隠して誰にもばれないようにと思ってた。 でも、やっぱりお前の隣に 今日のこともそう、見たくなかった。 けど健司が教えてくれた。 俺は自分の気持ちを隠すのに必死で、お前の気持ちが見えてなかった。 俺だけじゃなく、お前も同じように苦しんでたんだよな。ごめんな…―。」 充は自慢の笑みを見せる、だが悲しそうだ。 美咲はそのまま崩れ落ちた。 「美咲?!」 心配になって、充も美咲の前でしゃがみ込む。 「ごめん…何だか力が抜けちゃって…」 また美咲は下を向いたまま。 目に手をやるが、震えているよう。 「―泣いてるのか?」 充はそう気づいた。 涙を流す顔を上げ、充の眼を見て美咲は言う。 「辛かった!辛かったよ… 好きになって詩織に嫉妬したこともあった… でもどうしてお兄ちゃんなんだ、って…何度も思った。 絶対に知られちゃいけない、恥ずかしいことだって。 だから私もこの気持ちを隠し通すことしか考えてなかった。 まさか…私の想いが報われる日が来るなんて思ってなかった… 一生この気持ちを隠し通すって決めてた… 健司君が詩織に私の気持ち教えちゃうし… また口止めしなきゃって思ってたし…私、お兄ちゃんの気持ち今知ったんだよ?」 次から次へと言葉が出てくる。 でもたくさん溢れて出て何を伝えていいかわからない… 美咲は震える手を愛する人の頬に伸ばす。 彼女もまた、微笑んでいた。 「私も―愛してる…」 恥ずかしくなって美咲が下を向いた。 すると充は美咲のの顎をクイッとあげて自分の方を向かせた。 「もう…離れられないよ…」 二人はそのままキスをし、再び抱き締め合う。 「ねぇねぇ、詩織。俺らはいつ帰ればいいと思う?」 「ふふ。本当だよね…二人がどうなってるか次第だけど…」 「俺一回覗いちゃった時あるんだよねぇ…人の現場」 それは正しく美咲と充の現場なのだが、詩織に伝えるのはまずいと思った。 「えー…じゃあ健司君覗いてきてよ」 「うん、いいよ」 いいのかよ?!と思いながら詩織は健司の後に続き、別荘に戻る道を行く。 健司がおもむろに手を差し伸べる。 詩織は喜んでそこに自らの手をのせた。 「そういえばさ、俺のことずっと"健司君"って呼ぶ気?」 「え゛…だって突然呼び捨てになったら恥ずかしいんだけど…」 「ふーん、まあいいけどさー」 別荘に着き、健司だけ中に入って行く。 詩織は外で待っていることにした。 まずは美咲と詩織の部屋をチェック。 次に健司と充の部屋をチェック。 しかしどちらの部屋にも二人はいなかった。 「どこ行きやがった?」 ふと視線をやったドアから光が漏れている。 健司はその部屋を覗いた。 すると二人はスヤスヤと眠っていた。 仲のいい兄妹、いや今はもう恋人になった仲だ。 「なんだよ、寝てるだけかよ」 最中かと思い、細心の注意を払って忍び込んできたのに… 健司は玄関に戻り、詩織を別荘内に迎え入れた。 「あの二人、手繋いで仲良く眠ってるよ」 「そうなんだ〜てっきり最中かと思ったのになぁ」 詩織が"最中"と口にするとは…と健司は少し驚いた。 「俺らもさっさと寝よう」 「寝る…?」 「何、詩織ちゃん何考えてるのー?」 健司はニヤリと笑った。 「な、何も考えてないよ!変なこと言わないでよ」 あははは 健司の笑顔に詩織も安心した。 これで私達も美咲達も幸せになれるね。 このまま永遠に幸せでいようね―? |
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第四十九話…修復… 4人はそれぞれ、美咲と充、詩織と健司で恋人となった。 そして、この海でのただ一つの心残り…。 美咲は伸也の片想いの相手・絵理香に謝りに行く。
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