第45話<悪魔>

 また明日も海来れるんだからさ。
 今日はこれくらいにして、家に戻ろう。

 そう言ったのは健司だった。
 皆がそれに同意し、リビングで皆がくつろいでいる。

 すると、ピンポーンとチャイムがなった。

 健司が玄関まで様子を見に行く。
 すると、そこには中年の女性が立っていた。

「ああ、妙子さん」

「健司坊ちゃまは大きくなられましたなあ!」

 妙子と呼ばれる女は微笑んだ。
 健司がリビングに妙子を案内した。

「まあ!坊ちゃまのお友達でしょうか」

 充、美咲、詩織の3人は驚いた。

「もう18なんです。坊ちゃまはよしてください」

「でも私が最後に坊ちゃまに会ったのは小学生の頃で…」

「健司でいいですよ」

 健司は笑いながら3人を見れば首をかしげている。
 ああ、そうかと健司は思い出したように言う。

「こちらは妙子さん。
 妙子さんはこの別荘の管理をしてくれてるんだ。」

 3人は頭を下げ、一人ずつ自己紹介をした。

「あらま、かわいらしいお嬢様方をお連れして…
 男性のお二方は手を出さないようにして下さいましな。」

 言うたそばから健司が加える。

「大丈夫だよ。充と美咲は苗字が違うけど、兄妹だし。皆仲のいい友達だから」

「そうでございますか」


 妙子はすぐに別荘内の掃除を始めた。
 美咲は妙子を見つけると、声をかけた。

「私も手伝います。お邪魔になってますし…」

「いえ、健司さんのお連れ様ですから、ゆっくりしていて下さい」

 健司が坊ちゃまと呼ばれるのを拒むのを妙子は気にしているのだろうか。
 あえて健司さんと呼んでいた。

 手伝わなくてもよいというので、掃除をしていた部屋から離れようとした。
 その背に妙子が声をかける。

「高校生ですか。早いものですね…
 お友達がいらしてよかったです。私がこんなこと申してよいのやら…
 一時期、健司さんは人間不信になりかけていた時期がありました。
 私にはどうすることもできなかったのですが、どなたかお友達がその闇から救ってくださったようです。」

 美咲は何も言わず妙子の言葉に耳を傾けている。

「救ってくださった方が今日来てる充さんであることはすぐわかりました。」

「そうだったんですか…
 今の健司君はいつも楽しそうに笑っているので、もう心配は要りませんよ」

 美咲の微笑みに、妙子も微笑んだ。




 妙子の話には少し驚きつつ、美咲は夜の海の浜に座っていた。
 潮風が心地よい涼しさを運んでくれる。
 その時だった。

「昼間の子だよね」

 ハッとして見上げれば昼間、美咲に絡んできた男だった。

「あ、こんばんは…」

 少し怖がりつつ挨拶をする美咲。

「何か悩んでるの?」

「いえ別に…」

 何だか男の様子が昼間と違う。
 美咲はそう気づきながら視線は海に向いたまま。

「俺は悩んでる」

 かすかに光る月を見つめながら、男は話を続けた。

「本当は俺好きな女がいるんだ。
 でも…ずっと伝えられない、今の関係が壊れるのが怖いんだ。」

 美咲は驚いた。
 自分と似た状況だ、と…。
 しかしただ一つだけ疑問があった。

「そんなに好きな人がいるのに…どうして今日ナンパしたの?」

「気持ちを紛らわせたかった…自分の気持ちを隠したいのかな。」

「どうして気持ちを紛らわせるの?
 結局自分の気持ちに嘘はつけないのに。
 嘘をつけばつくほど、その人にもっとのめりこんじゃうよ」

 美咲は実体験を話すかのように言う。

 自分の気持ちを抑えても抑えてもどうにもならなかった。
 今はその反動でより一層好きになってる、愛してしまっている…

 ちょうどその時だった。

「美咲!」

 その声は充だった。

「お前…夜に一人で出歩くなよ」

 充はそう言い、美咲の腕を引っ張り昼間の男から離した。

「"美咲"か。今日は話せてよかった。ありがとうな」

 男は言い、立ちあがって去って行った。
 その背を眼で追っていると自分を呼ぶ声にハッとする。

「美咲」

 充の声は怒っているように感じられる。

「あの人、悪い人じゃないよ。悩んでたの。」

 充は頭を抱えた。
 悪い奴はそうやって近づいてくることを教えてやらねば…

「あの人ね、好きな人がいるけど、ずっと伝えられずにいるんだって―」

「お前にもそう言う男がいるから、あの男の気持ちがわかるのか」

 美咲も充自身もはっとした。




 別荘を管理する妙子は掃除などの仕事が終わるとすぐに家に帰った。

 詩織と健司だけになった別荘。
 リビングにいた詩織は何気なくテレビを見ていた。

 健司に本当に告白するのか…決めかねていた。
 充が言うように健司には迷惑な気持ちかもしれないし…。
 そんなことを思っていると、後ろから健司が近寄る。

「詩織ちゃん」

 再び悪魔が女の前に現れる―

「いいこと教えてあげる」

「いいこと…?」

 詩織は健司の不穏なオーラに気づいていた。
 だけど知りたい、"いいこと"…

「そう。いいこと
 本当は詩織ちゃんはもっと早くから知ってなきゃいけなかったことだと思う」

「どういうこと?」

「美咲と充の話」

 そう言うと健司は詩織の方を向きながら座った。

「異母兄妹のことと関係があるの?」

「大あり」

 健司は詩織の耳元でそう囁き続ける。

「美咲と充…二人は兄妹なのに愛し合ってるんだ―」



第四十六話…サーファー…名前も知らないあのナンパ男。
充はナンパ男がどうしても気に入らない、しかし美咲は進んであの男に近寄って行く。
健司が詩織に二人のことを教えてしまった。
だけど詩織はもう美咲から離れないと覚悟した。もう美咲に悲しみを与えたくないのだ。
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