第43話<気持ち>

 私は詩織を慰めないといけない立場なのに…
 あの場で自分が逃げてしまったのは最低だ。

 美咲はそう思った。
 私がまだ過去をひきずってるみたいじゃない、心の奥底で―

 美咲からすれば、充があんなに詩織を責めるとは思っていなかった。
 確かに詩織は前まで充が好きだった。
 しかし美咲は乗り換えたとは思っていない。

 詩織は純粋に健司のことが好きなんだと思っていた。
 美咲はそれを知っている。



 充は二階から降りて来、詩織に「今日は美咲を一人にしておこう」と言った。
 そして詩織は松尾家を後にした。

 充は服を着替えて、"麗"のもとへ向かった。

 麗はかつて充が働いていた店のNo.1だった女。
 そしてその業界から逃がしてくれた。

 彼女は充の恋愛を知っている。
 充が麗にすべてを話したのだ。

 店についた頃にはもう周りは暗くなっていた。
 そろそろ店に麗はいるだろうと思い中に入れば、ソファに座りタバコを吸っていた。

「あら充君、久し振り」

「麗さん…久し振りです。俺、正式に辞めに来ました」

「そう、オーナー呼んでくるわ」

 麗がオーナーを呼びにオーナー室に向かった。
 充はソファに座った。

 少しして、オーナーと麗が部屋から出てきた。
 充は立ち上がり、敬意を表し頭を下げた。

「充、大丈夫か」

 オーナーは充を心配していた。

「はい、大丈夫です。
 …さっそく本題なんですが、今日でここを辞めさせていただきます」

「…まあ、お前の場合しょうがない。
 お前はこんなとこで働いてはならなかったのかもしれないな」

「申し訳ありません」

「いいんだ。処理はこちらでやっておく」

 そう言ってすぐにオーナーは部屋へ帰って行った。
 辞めることを認めてくれた。

 麗は興味半分で聞く。

「美咲ちゃんとはどうなってるの?」

「…あれから一緒の家に住むことになりました」

「そう、よかったじゃない」

 麗は笑顔で言った。
 しかし充は笑顔を見せない。

「俺、美咲のことが好きだけど告白できない
 美咲が俺のことどう思ってるのか…わからないし」

「本当に恋をしてるのね。もしかして手出した?」

「…最低ですよね…」

 確信していたわけではないが、前充が店に来ていた時そんなことをほのめかしていたから気になったのだ。
 それで麗は興味半分で聞いた質問なのだが、充が素直に答えてくれて驚いた。
 やはり手を出していた…。
 まぁ年頃の男の子だからやりかねないものだけど…。

「やっぱり、やっちゃってたわけね。
 でもそれ、言っていいかしら。
 美咲ちゃんは体を許したなら、あなたを好きなんじゃないかしら」

「いえ、俺が強引に…」

 充は自分のしたことを麗に怒られるのではないかと下を向いた。
 まるで姉弟のような感じだ。

「あら、強引にやっちゃったの?!」

 しかし麗は怒らなかった。
 充のことをちゃんと理解しているからだろうか。

「そうでもないんですけど…でも確かにあいつはすごく優しかった。」

 優しく抱き締めてくれた。
 俺の悲しみを受け止めてくれた。


 ビンゴ。
 それはあなたのことが好きってことよ。



 麗の言葉がずっと頭の中に残っている。
 そうであって欲しいと願っていたはずなのに…今は戸惑っている。

 充はあの店を出てからフラフラと歩いていた。
 すると、無意識のうちに健司の家にたどり着いた。

 健司の部屋に通されると、健司はこう言う。

「さっき学校であったばっかなのに…そんなに俺が好きか」

 健司は冗談を言うが、充には聞こえていなかった。
 ソファに座り、来馴れた家でくつろいだ。

 健司は来客にお茶を振舞うため、用意をしていた。

「前務めてた店、お前知ってるだろ」

「ああ。辞めれたのか?」

「まあな。その店の女に言われた。
 美咲は俺のことが好きなんだって…その人にわかるわけないよな」

「さあな」

 健司は驚いた。
 充が、美咲の気持ちに気付いたら…どうするんだろう?
 今の二人の関係をあまり揺るがさないでほしい。

「ところでお前、詩織ちゃんに告白されたんだろ?」

「ああ。まあそうだけど」

 健司が茶を淹れ終えて充に差し出し、自らも充の前に座った。
 二人は茶を飲みながら言葉を交わす。

「家に詩織ちゃんが来てた。
 で、怒鳴っちゃった。健司が怒るのもしょうがないと思ったからさ」

「詩織ちゃんは前科ありだもんな」

 笑って言うのは過去の話であり、詩織がしたことは許されているのだろう。
 健司は続けて言う。

「お前さ、人のこと言ってる場合かよ」

「…そうだけど…」

「お前らは何しでかすか、わかんないしな」

 笑いながらお茶を飲む健司。
 兄妹二人が一線を越えたことを指しているのだろう。
 これも笑い話となった。

 充は健司をずっと見ていた。
 そしてやっぱり感じた。
 親友・健司の好きな相手―

「お前やっぱり美咲のことが好きなんだろ」

「は?何でだよ」

「だってお前の好きな女とか最近聞いたことないし」

「そりゃ世話の焼ける親友がいるしな」

 健司は笑って話を逸らそうとする。

「認めろよ。…それとも自分でも気づいてないのか」

「だから!俺のことなんていいだろ!」

「お前は認めようとしないだけ
 美咲が好きだと認めてしまえば、俺とギクシャクする…だからだろ」

「何言ってんだよ…」

 健司は立ち上がった。
 しかし、否定の言葉が出てこなかった。

「いい、お前が美咲を好きでも…俺が諦めるべきなんだから。迷うな健司」

 健司は充の正面に立って充の頬を勢いよくぶつ仕草をしたが、寸前で止めた。
 そしてそのまま充の頬をつねった。

「何だよ…今まで美咲を独り占めしてたくせに!!今さら諦めるだと?」

 健司は下を向いて目を合わせようとしない。
 充には健司が涙を流しているのでは、と思った。

「やっぱり美咲が好きなんだな」

 つねられたままの充がそう言う。
 すぐに健司はそれを止めて涙を隠すためか、充に背を向けて言う。

「別にお前から美咲を奪ったりしない…する気もない」

 充は笑った。

「奪えるもんなら奪ってみろよ」

 ―お前に奪えるのか?
 充は健司を挑発した。



勝手な妄想ですけど、「奪えるもんなら奪ってみろよ」の時の充の目がヨスw

第四十四話…別荘…金持ちが故持つ坪井家(健司の家の)別荘。
4人によくない空気が漂う中、充の挑発にのった健司は自らの別荘へと誘う。
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