第42話<勇気>

「確かに身を乗り換えたと思われてもしょうがない…
 けどそれは本当に違う。私は本当に健司君が好きだから」

 予想はできていた。
 健司君の私への態度。

「充には告白しなかったのに俺には告白?
 よくいたんだー中学のとき、そういう子。
 充が好きで近づきたくて、最初に俺に近づいてくる―」

 詩織は掴んでいた健司の腕をより一層力を加えた。

「私はそんな女じゃない」

 どうしても伝えたい気持ちだった。
 真剣な詩織の目。
 健司はそれに気づいたが、視線を下げて「ごめん帰る」と言い、その場から去った。

 健司に自分の気持ちが届いたのかなぁ…。
 ショックだったのは―
 自分が充を手に入れるために近寄った女と思われたからことだった。



「わーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 美咲が自宅の玄関ドアを開けると詩織が泣き続けていた。
 美咲は頭を撫でながら「どうしたの?」と聞いた。

「…健司君に…告白した」

 ヒクヒクと泣きながら話す詩織の言葉に驚いた。

「告白したの?!すごいすごい!!」

 すごい!!と言ったは良いが、詩織は泣いている…。
 ふられたのか…?
 そう思っていると詩織は大声で叫んだ。

「伝わらなかった!!」

 その後に「なんで…?なんでなのよ…」と繰り返している。
 『伝わらなかった』…?
 どういうこと?―美咲には意味がわからなかった。

「とりあえず詩織…落ち着こう。」

 美咲は詳しく聞こうと、詩織をリビングへと誘導した。

 すると詩織はすぐに落ち着いて話し始めた。

「私…知ってるの。健司君の好きな人」

「え?…そうなの…?」

 美咲は初めて健司の恋愛事情を聞いた気がした。
 それに、好きな人がいるとわかっているのに告白した詩織もすごいと思った。

「本人は気づいてるのかどうなのかわからないし…
 その健司君の好きな人も…健司君じゃない人が好きだって」

「それって、私の知ってる人なの?」

 詩織はその質問に少し迷った。
 美咲、あんたが当人だよ、とはさすがに言えない…。
 確認もできていない、予想の段階だし。

 詩織はとりあえず否定した。
 それにそれを美咲に伝えてしまったら…美咲は困るだろうし―

「美咲は知らない人…かな」

「そっか、詩織は偉いね。
 好きな人がいるってわかってるのに告白したの。
 とても勇気がいると思うから…だけど私だったら怖くてできないよ…」



 充は松尾家に帰ってきた。
 荷物を置いてから、かつて働いていた繁華街へ向かおうと考えていた。
 それは麗という人物へ挨拶をしに行くのも含まれている。

 しかし、靴の数が一つ多いことに気づいた。

「あれ?詩織ちゃんが来てる?」

 リビングを覗いて充が言った。

「うん」

 美咲がうなずく。

「お邪魔してます」

 詩織は普段通りに言ったつもりだったが、鼻をすする音で充には泣いていることが分かってしまった。

「…詩織ちゃん、どうしたの?」

 充は美咲と詩織の座るソファまで近寄った。

「えっと…」

 美咲は事を話すべきか迷っていた。
 詩織は言ってほしくないのかもしれない。

 すると詩織が口を開けた。

「私、健司君が好きだったから告白したの。」

 充は驚いた。

「なんで…?
 前まで、詩織ちゃんって俺のこと好きだったんじゃないの?」

「うん、充君にはとっても"憧れ"てた」

「憧れ?」

「芸能人を好きになるみたいに―
 私は、学園の人気者の充君に憧れを抱いたの。
 それから美咲と仲良くなって、充君と健司君とも仲良くなった―」

「で健司を好きになった?憧れではなく?それで健司はなんて答えたの?」

「…私が好きってこと分かってもらえなかった」

 充はふと笑った。

「詩織ちゃんは人間関係崩すプロだね」

 充は嫌味を言った。
 人間関係を崩したのには前科がある。
 詩織は一度美咲から離れて行った。
 それ以来の二度目。

「健司の気持ち、俺も理解できる」

「お兄ちゃん!」

 美咲は充の前に立ちはだかった。
 詩織がもっと傷ついてしまう気がした。

「なんだよ、美咲。お前だって被害者だろ?!
 去年、お前は嫌な思いをしたじゃないか!止めるな」

 美咲には充の言いたいことがわからなかった。
 被害者だから?何が言いたい?

 自分だって関わってたじゃない。
 私はあの時、二人を許した。
 それから辛かった思いから解放された。
 兄も詩織も心から謝罪をしてくれたのに、今さら持ち出さなくていいじゃない―

「充君はそうやって影で私を操ってたんじゃない!!」

 二人の言い合いは激しくなっていく。

「だけど結局動いたのは詩織ちゃん自身だよ」

 充は冷静に言葉を返す。
 美咲は聞きたくなかった。

 もう過去のことなのに。
 そんなことで言い争いなんてしないでよ―

「もうやめてよ…」

 美咲は静かに部屋へ向かった。


 残された充と詩織。
 二人は「ごめん」と互いに言った。

「私は本気だから、健司君のこと―」

 詩織は一言そう言って去っていくつもりだった。
 だがそれを充が止めた。

「詩織ちゃんには悪いけど…健司…」

 美咲が好きなんじゃないか?
 充はそう言いたかった。
 ただ、それは「たぶん」というレベルでしかない。

「美咲が好きってこと?」

 充は驚いた。
 まるで心を読まれたかのようだった。

「…やっぱりそうなんだ…詩織ちゃんは、それでも告白したの?」

 詩織も気づいている。
 健司の気持ちは確実に美咲に向いている―

「気持ちを伝えたかっただけ」

「健司にはそれが重荷になったかもな」

「どういうこと?!」

 充は2階へ向かおうとした。
 ついでに詩織に言葉を返す。

「健司は…美咲のことを好きだって気付かないようにしてるのかな」

 充は加えて「理由は言えないけど―」と言い、二階の美咲の部屋を覗いた。


 美咲は充の階段を上る足音が近づいてきたのに気付き、布団に潜り込んだ。
 充が扉を開けて、すぐに去って行ったのを確認した。



健司が美咲を好きだとして、
健司の悪魔姿は幼稚園児が好きな女の子をいじめる的なことですよねーw
それのとっっっっっても激しい版…。

第四十三話…気持ち…充の気持ち、健司の気持ち―
交差する想い、確信する想い、思い知らされる想い、そして挑発。
(余談:)
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