第4話<遊園地>

 翌日は休日だった。

 メールで越川に呼び出しを受け、遊園地にいる美咲。
 しかし、美咲にとって今は遊園地にいる気分ではないのだ。

「美咲ちゃん、はい。アイスクリーム買ってきたよ」

 昨日のきつい口調が嘘のよう。
 越川は優しく美咲に接していた。

「ありがとう」

 越川に精一杯笑顔を向けた。

「あはは…美咲の笑顔、本当に好きなんだ。
 誰かに似てるよなー…その笑顔…誰だっけなー?」

 『身近にいるような…―』

 その言葉に美咲は驚いていた。
 ただ『美咲』と呼び捨てに呼ばれたからではない。

「そ…そう?」

 笑顔―笑顔で思い浮かぶのは…異母兄の…充だけ―

 思い知らされる。異母兄妹だが、確かに同じ血が流れているという事実。

「そうだよー。本当誰だっけなぁ…」

 越川は精一杯似ている人物を思い出そうとしていた。

 思い出されては困る。
 美咲は話の路線を変えようとしていた。

「あっ越川君、それより何か乗ろうよ!せっかくここ来たんだし。ね!」

「しょうがないなぁ…美咲の頼みだし…」





「充君!待ってよー…」

 充は心の中で思う。
 この女は本当に面倒臭い女だ、と…

 充にとってここ、遊園地は苦痛だった。
 他校に通う里奈という女の無理矢理の誘われたのだった。

「里奈ちゃん、もうちょっと早く歩いてくれる?ごめんね」

 充は優しい口調で自慢の笑顔を振りまいた。
 心の中では「さっさと歩け。」と思っているに決まっているのに。

「…あ、ごめんね!充君…私、頑張って歩く!」

 笑顔を見せれば誰だってイチコロ。

 充は今までそう通してきた。
 しかし…美咲だけはこの笑顔を怖がっている。
 その事は充自身でも気付いていた。

 里奈はバイト先で知り合った女で、二人は付き合っているが充はあまりその気ではない。
 今は女どころではない。

 その時だった。

「…嘘だろ―」

 充は驚いた。
 目の前に見える男女―

 美咲と…誰だ?あの男、越川英次か…?

「おい、美咲!」

 充の声に、美咲は顔を上げる
 なぜここに…橋川がいることに美咲は驚いた。。
 しかしすぐに声の主から目を背けていた。

 こんな場所で会うとは思わぬ人物であり、『なぜここにいるのか』という疑問がただただ浮かんでくる。

「あれ、橋川。どうしてここに?」

 越川が話しかける。

「ダメか?俺がここに居たら」

 いつもの笑顔を向けた。

「いや、別にいいが…お前、その人と付き合ってるのか?」

 越川が里奈を横目でチラッと見る。

「どうとってもお前の勝手だ」

「でもお前、学校では美咲と付き合ってるって…」

 里奈が体を前に乗り出していた。
 その様子から見ると、どうやら初耳だったようだ。

 美咲の目は越川に向いていた。
 先ほど言っていた、越川が抱く笑顔の疑問。
 それに気付かれてしまわないだろうか、と―

 また、充がその光景を見ていた。
 この二人の間に恋愛感情はあるのだろうか。
 そうだとしたら、ここの関係も断ち切ってもらわなければならない。
 美咲だけ幸せになるだなんて…許さない。

 お前は今まで十分幸せだったんだろ?

「お前はどうなんだよ?」

 少しだけ、彼の自慢の笑顔が消える…。
 充は真剣に越川に質問をぶつけた。

「私達は―」

 ただ遊びに来ただけ…
 美咲はそう言いたかったようだが、その言葉は越川に邪魔をされてしまった。

「俺達、付き合ってるんだよ。な、美咲。
 お前は美咲と付き合ってないんだろ。美咲から聞いたよ」

 美咲、美咲―
 そればっかりでうるせぇヤツだな。
 充は越川を横目で見ながら、心でそう思うのだった。

「おい…美咲、話がある。ちょっと来い」

 その言葉に従って、美咲は越川に「ちょっと行ってくるね」と言い、その場を去った。



 少し歩いたところで、美咲と充は向かい合った。

「あの女の子はお兄様・・・の彼女さんですかー?」

 嫌味のように美咲が言う。

「俺のことはどうでもいい。
 それよりお前は、本当に越川と付き合ってるのか?」

 充が聞く。
 その目は真剣だった。

「私の事だってどうでもいいじゃん。」

 充に美咲が同様に反抗する。

 この人が何も言わないのに、どうして私が言わなきゃならないの?
 別に付き合っていない。
 その事を言う必要もない人物だというのに―

「てめぇはダメだ」

 充が言う。

「…何で?」

 充の口調に、恐る恐る美咲は問いかけた。

「てめぇには…幸せになってもらったら困るんだ」





「ね、あの二人ってどういう関係よ?」

 いつも、充には見せない本性を越川に見せる里奈。
 この二人はもちろん初対面だ。

「わからない。
 ただ、学校では橋川が美咲と付き合ってるって自ら言ってたんだ…」

 越川は真剣に自分の疑問を打ち明けた。

「でもあんた、あの女と付き合ってるわけでしょ?
 私だって充君と付き合ってるわけだしー。問題はないと思うけど」

 里奈が少し可愛い子ぶって言う。
 この子は心配などしていなかった。
 充はちゃんと自分を愛してくれていると信じてやまないのだろう。

「わけわかんねぇよ。あいつの考える事は…」





「幸せになってもらっちゃ困るって何?!
 私だって幸せになる権利持ってるし。いちいち口出さないでよ」

「ふーん。そう言う事言うなら、とことん付き合ってやるよ」

 また不気味な笑みを残し、里奈・越川の元へ帰って行った。
 美咲は寒気がし、少しの間動けずにいた。

 この人がいる限り、私は一生幸せになれないのかな?



第五話…美咲は自分の不幸さから、越川に別れを告げる。
充もまた里奈に別れを告げるのだった。
その後も美咲への嫌がらせは絶えず、誰もこの嫌がらせに気づく人はいない。
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