第39話<敵と味方> | ||||
「ねぇ、母さんだったらどうする?」 美咲は母・和美に問う。 「どうする、って何を?」 「もし18歳の時、一人で生きていけって言われたら。 親戚も何も周りに頼れる人がいなくて…とても孤独じゃない?私は…嫌だな」 美咲は景子が健史に宛てた手紙をぐっと握り締めた。 「…そうね。私も嫌だわ」 「景子さんは間違ってる…お兄ちゃんだって一人は嫌に決まってるのに!」 和美が美咲を見ると、ぐっと唇を噛みしめていた。 「美咲、大丈夫よ。私が健史さんを説得するから 充のことをちゃんと名前で呼んでくれた。 美咲は嬉しく思った。 一番嫌な立場はお母さんなのに… 「お母さんは嫌じゃない…?」 「嫌じゃないと言えば嘘になるけど、18歳の子を放ってはおけないわ。 それに美咲は"お兄ちゃん"にここに住んで欲しいんでしょう? 私だって鬼じゃないわ。だから美咲、元気出して!お父さんもわかってくれるわ」 母のその言葉に美咲はパッと満面の笑みを浮かべた。 「じゃあお兄ちゃんも説得してくる!気使ってるんだよ…お兄ちゃん」 「そう、行ってらっしゃい」 和美は美咲を玄関まで見送り、またリビングに戻ると景子の手紙を握り締めた。 景子さんは憎い。 亡くなってまでも私達を狂わす。 でも子供まで巻き込んでしまうのは可哀想だ。 健史さんも自分の罪から逃げないで欲しいのに… 美咲は充の家の前に着いた。 チャイムを鳴らそうとインターホンに指を伸ばす… その時だった。 ガチャ 充が部屋から出てきた。 「お兄ちゃん!」 美咲の声は喜びで溢れている。 「…美咲?何でここにいるんだ」 「母さんがね、お兄ちゃん一緒に住んでいいって!」 そんなバカな。有り得ない。 充の心はそうとしか思えなかった。 「あの男はいいとはいってないんだろ?」 「…そうだけど、母さんが説得するって!」 松尾和美は一体どうしたんだ? 充は疑問でしかなかった。 「―わりぃ…ちょっと俺用事あるから、この話はまた明日しような」 そう言って充は出て行ってしまった。 「お兄ちゃん…!」 「充君、お悩みのようね」 某繁華街の一角。 ある店に充はいた。 「…麗さんか」 綺麗なドレスを身にまとう麗と呼ばれる女。 まだ誰もいない部屋に充と麗はいた。 「なぁに?どんな悩みかしら」 彼女はタバコを一つ口にくわえた。 麗はいわゆるキャバ嬢。 『麗』という名も源氏名であろう。 そしてここは麗の働く店で、彼女はここのNo.1なのだ。 充はこの店でボーイをしていた。 「おもしろい話じゃないですよ」 「そうみたいね。オーナーがあなたのことをよく心配してるわ」 麗はいつの間にか充の母親が死んだことを知っていた。 噂では、麗とオーナーは深い関係らしい。 たぶん噂じゃなく事実であることは充も理解している。 でなければそんな個人情報を言うはずがない。 充がふとため息をつくと、麗はこう言う。 「 好きな子―? まさか知っているはずがない。 オーナーにさえ口走ったことがないのに。 そう考えていると、麗が笑った。 「あら、好きな子いるのね!」 充は眉間にしわを寄せて少しイラついた。 勝手に罠にかかってしまったんだ。 健司にばれた時と同じだ― 「はあ…もう麗さんには敵いませんね」 「ふふ。さぁ話なさいよ」 半ば麗は強引だった。 充は自分が愛人の子であることから異母兄妹の美咲を好きなこと、そして母が亡くなり松尾家に住むように言われていることを話した。 「まあ大変ね…」 「おもしろくないでしょう?誰にも言わないでくださいよ」 口は軽くないよな…と心配しながら頬杖をついて麗を見た。 「充君、その子は知ってるの?ここで働いてること… あなた妹の美咲ちゃんの家に住みなさい。 そしたらここも辞めること。わかった?じゃないと私みたいになっちゃうわよ―」 麗は真剣に充の眼を見て言葉を並べた。 「え、どういうことですか?」 「私も充君とほとんど境遇は同じだったわ。 この仕事を昔からやっていたからとても冷たい目で見られてたわ。 だから一緒に住もう、って言ってくれるその妹と、両親がいてうらやましいわ」 麗が自らの経験をしてくれたことに感謝した。 「でも麗さん、俺…美咲と同じ家に住んだらまた手を出してしまいそうだよ」 『今日はさっさと帰りなさい。オーナーには言っておきますから。 今後どうするか、あなたが決めること。やめるときは私にも会いに来て頂戴ね』 充は麗の言葉に従い、松尾家に向かった。 チャイムを鳴らし、出てきたのは美咲の母・和美だった。 「遅かったわね。美咲はもう帰って来てるけど…ついでに健史さんもね―」 「…和美さん、俺は本当にここに住んでもいいんですか」 「私はいいわ。ただ健史さんがどう言うかよ。中に入りなさい」 充は和美がなぜ自分に協力してくれるのか、わからなかった。 玄関を通り、リビングに入ると健史は新聞を読んでいた。 そして彼はこちらを向くと少し怖い顔をした。 「何しに来た?」 「自分の息子になんてこと言うの」 充の後ろから和美がキッチンに向かう。 健史はその姿を目で追った。 「和美、なぜ充をこの家に上げた?」 和美は手を休め、健史を見た。 「もう自分がやったことに責任を持って頂戴。貴方の息子でしょ」 和美の言葉に健史は言葉を返すことができなかった。 |
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第40話…失恋者達…越川と里奈ちゃんが想い人に気持ちが届かないのを嘆く。 なぜこの想い届かないのだろう…?こんなにも好きなのに! 二人はどんなに想っても相手が自分を想ってくれることはないのだと理解し始めた…。
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