第36話<事後、朝> | ||||
充と美咲が朝食を食べている時だった。 もちろん、二人の間には沈黙が流れている。 ピンポーン 「誰だろう、こんな朝早くに…美咲、ちょっと見てくる」 充はそう言い玄関に様子を見に行った。 美咲もその訪問者が気になった。 ガチャ… 「あっ充君!朝早くにごめんね…」 そう言う女は図々しくも部屋の中に入ろうとする。 それを充は止めるが、その止めた手さえもどけて女は奥へと入る。 おおよそ、玄関においてある靴を見て、美咲の存在に気づいたのだろう。 「里奈ちゃん!」 充のその声で美咲が顔を上げた。 訪問者は里奈だったのだ。 「…やっぱり…二人付き合ってたのね?!いつから?」 リビングで美咲を見つけると里奈はそう叫んだ。 「里奈ちゃん、違うんだ。座ってくれ」 「違う?ならどうしてこんな朝っぱらから一人暮らしの男の家に女がいるのよ?!」 里奈の意見はもっともだ。 昨夜のこともある。 「里奈ちゃん…言ってなかったけど、俺達は異母兄妹なんだ」 興奮していた里奈が一気に冷め上がった。 「…異母兄妹…?」 美咲も、充もうなずく。 「そうなんです。私達、半分しか血が繋がってないんです。」 そう告げる美咲はまるで放心状態の如く、一瞬も動くことはなかった。 ただ呆然と一点だけを見つめていた。 すると、里奈はこう言う。 「じゃあ…充君はこの子の家に行くの…?」 「…私はそう頼んでます」 充は突然、二人を立たせ玄関まで追いやった。 まるで話をそらすかのように…。 「さあ、もうすぐ学校の時間だ。早く行かないとね」 充がドアを閉めようとしたときだった。 美咲が手でそれを阻止し、言う。 「お兄ちゃん!お兄ちゃんは私と一緒に暮らすのがそんなに嫌なの?」 充が目を丸くして驚く。 この子は何を言っているんだと。 「お前はそんなに俺と暮らしたいのか?俺と一緒に暮らすのは大変だぞ」 一瞬さらさらと風になびく美咲の髪に無意識に手が伸びた。 ああ、どうしてこんなに愛おしく感じるのだろうか― 「いいよ、お兄ちゃんだけ一人なんて不公平じゃん」 「ふーん。俺は知らねぇぞ」 そう言い、充は一気にドアを閉めた。 充は思う。 自分の顔が真っ赤なのが知られたくなかったんだ。 昨夜、あいつを抱いた時から俺は錯覚している。 まるで、あいつが俺を愛してくれているように感じているのだ。 今日もそう。 嫌な思いをさせたはずなのに、なぜ? 美咲は俺をこんなにも心配してくれるんだ―? 「あのー…美咲ちゃんって呼んでいいんですか? 私、今まですっごい勘違いしてました…ごめんなさい。 お兄さんの事好きで、誰にも取られたくなくて…妹さんにも敵意張っちゃって…」 「あ、謝らないで…」 私の気持ちを知ったらあなたはまた敵意を張る。 ならばずっと敵意張っていてくれたほうが気が楽―。 決して口に出せない言葉をただ心の中で思う。 もし私の気持ちを知ったら里奈さんは私を軽蔑し、兄から離そうとするんだ。 そんなのは嫌だ。 「びっくりしたー。まだ私の知らない充君を見た気がするかも。 私、また充君のこと惚れ直しちゃった! でも充君は私の事どうも思ってないみたいで… 美咲ちゃん、お兄さんの好きな人とか知ってたら教えて欲しいんだけど…」 知ってどうするんですか? 美咲は口にはしなかった。 リンチでもしてしまうんじゃないかと少し怖く思った。 しかし、結局美咲自身も兄の好きな人など知らない。 「ごめんなさい、私もお兄ちゃんの好きな人は知らないんです…」 「そっか…じゃあ、これから協力してくれない?! 私と充君のこと!何だか心強い味方を見つけたような気がする!」 え…?協力? 嫌だ。嫌…イヤ。 里奈と充をくっつける。 そういうことだ。 「あ…あの、私じゃ全然力になれないと思うんですけど…」 遠まわしに断ってみる。 しかしそれは里奈には通用しなかった。 「大丈夫!」 その一言だけを言って、里奈は去って行った。 |
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第三十七話…キスマーク。 隠れた場所にあっても健司は気づいた。 現場を見たし、たまらなく怒りを覚えた―美咲は健司の様子がおかしいことに気づく。
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