第30話<嫉妬>

 教室に戻り、健司に会った充は先ほど聞いた話を思い出した。

「充、どこ行ってたんだよ」

 何も知らない健司はいつものように充に話しかける。
 そんな健司に充はどうしても聞きだしてやろうと思った。

「健司、ちょっと顔貸せよ」

 そう言って充は先を歩いて行く。

「は?」

 健司はその意味を全く理解できずにいた。
 しかし、とりあえず充の後について行くことにした。


 着いた先は人目のつかないような階段だった。
 先に口を開いたのは健司。

「何だよ、"顔貸せ"とか言いやがって」

 充は何も言わない。

 健司はどうしたのだろうかと悩んでいると、充はすぐに思いっきり拳を振るった。
 それはもちろん健司の頬に直撃し、彼は倒れ込んでしまった。

「てめぇ…何してんだよ!!」

 健司は怒った。
 まさか充がそんなことすると思わなかったのだ。

「わりぃ…お前と美咲が仲良すぎてイライラした」

 壁伝いに充は腰を下ろしてうつむいた。
 『健司を殴ってしまった』
 充は少し後悔した。

「…それぐらい口で言え!!口ん中切っただろーが!!見ろ血出ちゃったじゃーん…」

 内心『そんな事か』と思った健司は、怒気を帯びた顔つきからやっと普通の顔に戻った。

「最初は口で言おうとしたけど…何か拳が先に出たっていうか」

 充はハハハ…と笑う。

 『笑い事じゃねぇだろ!』
 健司はそう思い、こう言う。

「…とりあえず俺にてめぇを殴らせろ」

 健司のその言葉に充はすんなりと承諾した。
 それは本当に悪い事をしたという思いの表れだろうか。

 健司の拳には『何でコイツの嫉妬で痛い思いしなきゃなんねぇんだよ!!』
 そんな思いが力いっぱい込められ、充の頬を襲った。

「お前も思いっきりやるようになったな」

 充はそう言いながら口元から流れる血を拭いた。

「で?何だよ。お前の嫉妬の原因。
 俺が美咲ちゃんと仲良しなのはいつもだし…他に何かあるか…?」

 健司は真剣に悩んだ。
 しかしその結果は見出せなかった。

「クラスの噂。いや、学校レベルかもしれない…
 お前と美咲が付き合ってるんじゃないかって。
 修学旅行でお前、美咲に抱きついたんだろ?美咲はそんなことしないから」

 その言葉を聞いた健司はハッとした。

「そ…それは…」

 否定のできない事実。
 健司は全く言い逃れができなかった。

「事実だな。じゃあ、お前ら付き合ってるのか?」

 充は冷静だった。
 まっすぐと健司を見て、彼の言葉を待っている。

「それは事実と認める。けど、本当に付き合ってない」

 俺がこの言葉を言って充、お前は信じるか?

「俺は別に構わないよ。
 お前らが付き合っていても。美咲が付き合ってもいいと言ったんだろ?」

 ほらな。やっぱり信じない。
 お前の人生はもう美咲ちゃん中心に回っちゃってるんだよな―

「とにかく、俺は付き合ってない。お前が信じようが信じまいがお前の自由。」

 健司はドアへと歩いていく。

「まぁ少なくともお前は好きなんだろ?抱き締めたんだからな」

 充のその言葉に、健司は振り返りこう言う。

「好きだよ。
 でも恋愛感情じゃない。俺はお前ら兄妹に幸せになって欲しいんだ!」

 そう、心から思っている。
 この兄妹二人には幸せになって欲しい。
 だから二人を遠ざけたいのだ―

 それに俺と美咲ちゃんがくっついたらお前は苦しいはずだ。
 詩織ちゃんと充がくっつくのも同じこと、美咲ちゃんが苦しむのだ。
 だから美咲ちゃんは越川、充は里奈ちゃんに―。

 健司は自分のしたいことを改めて理解した。
 そして、ドアを開けて階段から出て行った。

 健司の背を見て充は思う。

 信じてないわけじゃないが…
 俺は本当にいいんだ。
 健司が美咲の事を好きでも構わない。
 そんなことは、わかっていたこと。
 人間、近くにいすぎると恋愛感情は簡単に生まれるんだから―





 授業が一通り終わり、終業を示す鐘がなった。

「美咲ちゃん」

 教室にいる美咲が振り向くと、そこには健司がいた。

「健司君、どうしたの?」

「美咲ちゃん、お話があるんだ。今日家に行っていい?」

 休日になると許可なく家に訪れていた健司が今日は許可を取っている。
 美咲はそれに驚いていた。
 いや、それもそうだが話の内容も気になっていた。

「うん。別に良いけど…?」

「じゃあ行こう!」

 そう言って健司は美咲の背を優しく押して教室を出て行った。

 その光景はクラスのほとんどの者が見ていた。
 もちろん詩織と越川、そして充もだ。

「今の見た?」
「やっぱり付き合ってるのよ!」
「仲いいわね」

 そんな言葉が教室のあちこちで聞こえてくる。
 充はそれを無視する事ができず、教室を後にした。

 わかっていたことなのに…
 やはりどこかで健司に嫉妬をしている。
 俺は本当に矛盾した人間だ。



「お邪魔しまーす」

 健司はそう言って松尾家に足を踏み入れた。
 その後に続く美咲は健司にこう言う。

「夕飯までには帰ってくれるよね?」

「うん。そのつもりだよ」

「じゃあ部屋行ってて。ジュース持ってくから」

 美咲は早速キッチンへ向かっていった。
 その背に健司は「ありがとう」と言った。

 松尾家の階段を上り、美咲の部屋へと着いた健司は充と美咲の小さい頃の写真を手に取った。

 お前らはこんなに仲の良い兄妹・・なのに…
 愛し合ってはいけないんだ。
 わかってくれ―



第三十一話…説得。健司が美咲を説得するw
俺がどんなにひどい人間か、自身でも理解できる。
他人を使い、自分の大切なものを守るのだ。
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