第27話<睡魔> |
数分経った時だった。 「あー…もうダメ…充…俺、寝る」 健司はそう言い、汚いベッドへと這って行った。 その姿を面白そうに見ていた充だったが、一つ恐ろしい事に気付いた。 「…美咲」 美咲はスヤスヤと眠っていた。 好きな女が自分のベッドで眠っている…。 通常の男なら襲うだろうに。 充は美咲の兄。 しかも、隣のベッドには親友が眠っている。 襲えるはずがない。 起こすしかないと思った充は美咲の方を揺すった。 「美咲、起きろ。起きな…」 初日のスキーともあって皆疲れきっている。 美咲もその一人だ。 充も例外ではない。 美咲を担いで部屋まで行く勇気もない。 ただ眠りたかった。 その睡魔にも勝てず、美咲の隣に充はパタッと倒れ込んでしまった。 『今日だけ…今日だけ。何もしないから…』 翌朝、一番最初に目が覚めたのは健司だった。 ゆっくりとまぶたを開け、ふと横を見た。 「…え」 健司は飛び起きた。 彼の目に飛び込んできたのは美咲と充が同じベッドで眠っているところだった。 しかし、すぐに横になった。 健司は思う。 『二人は兄妹なんだから―』 服を着ているし、自分がお邪魔だったわけではない。 健司は一安心していた。 目が覚めてからの健司は何もする事はなく、微笑ましく仲の良い二人の兄妹をただただ見ていた。 数分して美咲が寝返りをうち、上を向いた、と思ったがすぐに顔だけ横に向いていた。 充と美咲は向き合っていた。 健司はその事に気付いていたが、そう気にはしていなかった。 彼が思うよりずっと二人の顔の距離は近かった。 そんな時だった。 美咲の目が覚めたのは― 目が覚めた美咲は目を見開いてとても驚いていた。 懸命に今の自分の状況を把握しようとしている。 自分が服を着ていることを確認して、充の顔をふと見た。 そして手を伸ばした。 起きている健司もその行く末を見つめている。 どうして私は自分の兄を好きになったんだろう。 一番近くて…一番遠い存在…。 充の髪をかきあげながら思う。 胸が苦しい…。 美咲はベッドから飛び降り、健司が起きている事にも気付かずに部屋へと帰っていった。 健司は美咲の行動に驚いた。 兄妹だというのに… あんなに驚いて…あんなに急いで出て行くなんて… そんな事しなくてもいいのに… 健司は思う。 彼女は少しでも充を男として見ているのではないだろうか…。 充の髪をかきあげる時の顔。 とても愛おしそうだった…。 健司は素直に喜べなかった。 それは二人が兄妹であるが故。 どうすればいいだろうか。 とりあえず美咲ちゃんの気持ちを確かめよう その日、スキーが終わり健司はロビーで美咲を見つけた。 「あ、美咲ちゃん!」 健司はチャンスだと思った。 そこには詩織はおらず、美咲は一人だった。 「ああ!健司君、…。」 美咲は今朝の事を思い出していた。 勝手に帰ってしまったこと、彼は変に思っているだろうか? しかし、美咲の思いとは裏腹に健司は全く違う話を口にする。 「今日のスキーはどうだった?」 他愛もない話から― 健司はそうして核心に近づこうと思っていた。 「やっぱり私にはスキーの才能なんてないよ」 「そうかな?充にあるんだから!美咲ちゃんにだってあるよ」 美咲はうつむいた。 「そ…そうかな。 片っぽ親が違うんだから…兄にできることも私にはできないこともあるよ…」 それは一理ある。 しかし健司はそんな事はどうでもよかった。 美咲ちゃん…何動揺してるの…? どうして― 「どうして悲しい顔してるの?」 そんなに…『兄妹』って言われたくない…? そんなにも…辛い…? 美咲はハッと顔をあげた。 「何言ってるの?健司君、私スキーごときに悲しい顔なんてしてないよ!」 懸命にごまかし、笑顔を作り、否定する。 そんな美咲の姿が逆に健司の疑惑をさらに悪化させてしまった。 「じゃあ…どうして美咲ちゃんは充を愛おしそうに見ていたの?」 え?健司君…? 貴方は一体何を知ってるの― |
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第二十八話…二人の将来を握った、そして俺はそれを狂わす。 俺は裏切り者だ。絶対に二人を結ばすことはしない。
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