第26話<父の罪>

 その日の夜。
 美咲は夕飯を食べ、風呂に入り、詩織との部屋へと戻って行った。
 すると既に詩織はベッドで眠っていた。

 よほど今日のスキーが疲れたのだろう。
 美咲はそう思いながら洗面所へ行きドライヤーで髪を乾かしていた。

 数分してコンコンとノックの音が聞こえた。
 ドライヤーを消し、ドアを開けに行く美咲。
 するとそこには健司とその後ろに充が、立っていた。

「どうしたの?」

「トランプやろー」

 健司が子供のように無邪気に言った。

「あー…ごめん。詩織が寝てるんだ…」

 申し訳なさそうに言うと、健司はしょんぼりとしていた。

「そっか…」

 その姿に美咲はついこう言ってしまった。

「ここだと詩織起こしちゃうから…お兄ちゃん達の部屋ならいいよ」

 例え男の中に埋もれようとも、兄と一緒にいれば安心だろう。
 美咲はそう思った。

 すると健司の顔はキラキラと輝き出した。

「じゃあサッサと行っちゃおうぜー」

 健司は先頭を切って、階段まで行ってしまった。
 美咲たちが泊まるこのホテルは小さいもので、エレベーターはない。

 健司の姿に美咲はおかしそうに笑っていた。

「美咲」

 その声に美咲はハッとした。

 お兄ちゃんと二人きり…?
 密室なわけじゃないけど…

 美咲は充と二人きりにされるのが嫌だった。
 どこかでボロを出してしまいそうで怖かった。

「悪いな疲れてるのに」

「え…ううん。大丈夫だよ。そんな真剣にやってないし…」

 美咲はサラッとサボっていることを自白してしまった。

「おいおい。ちゃんと真剣にやらなきゃダメだぞ」

 充はそう言い笑った。

 美咲は何とか、普段どおりに話をしようと思った。

「私はどうせスキーできないから…」

「お前は俺の妹だぞ。できるに決まってる」

 褒め言葉?それとも自分が運動神経がいいという自慢?

「そ…そうだね」





 その頃、松尾家にちょうど健史が帰って来たところだった。

「お帰りなさい。お父さん」

 そう言うのは健史の妻・和美。

「おう」

 健史は上に着ていたコートを和美に渡した。
 ふと健史は玄関に並べてある靴を見た。

 あれ?美咲の靴がない…
 健司にある予感がよぎる。

 別に喧嘩をしたわけではないのだが…
 充が関係しているんじゃないかと…心配になる…

「美咲はどうした?」

「え?美咲は修学旅行ですよ。何言ってるんですか」

 そう言って和美はふと笑った。

「そうか…」

 健史はホッと安心した。
 その姿を見てか、和美が健史に声をかける。

「ねぇ、お父さん?」

「どうした?」

 健史はテーブルに座り、和美は茶碗にご飯を盛る。

「橋川さんの事だけど…私、もういいわ」

 健史は目を和美に向けた。

 和美はご飯をテーブルに置き、健史の目の前に座った。

「美咲は今あの人の息子と仲良くなってるわけだし…」

 和美がそう言うと健史はダンッと机を叩き、立ち上がった。

「バカを言うな。お前が苦しいだろ?充を見るとお前が…」

「景子さんがかわいそうよ。今入院してるそうじゃない…」

「お前があの女を心配してどうする?!」

 和美は黙り込んでしまった。
 確かにそうだが―

「でも、本当に。転校はしなくてもいいわ。
 彼が転校したら美咲が悲しんじゃうわ…
 親のことで子供達を犠牲にするわけにもいかないでしょ?」

「…わかった。」

 健史はそのまま夕食をつつく。

 和美は思う。
 転校させたいのは自分の為。
 自分のしたことを思い出したくないから。
 そう思ってるからでしょ?健史さん―





 雪の中にある宿。
 そこでは充・健司・美咲がトランプで遊んでいた。

「それにしても健司君のベッド汚いね」

 そう。健司のベッドには服が散らかっていた。
 まだ修学旅行初日だというのに…

「むー。いいじゃんか」

 何も良くない。
 美咲は思ったが決して口にしなかった。

「…疲れたー…ちょっと10分くらいでいいから休憩させて…」

 そう言って充のベッドに横になった。

「あーあ。じゃあ充、遊ぼうぜー!スピードとかやろうぜ」

 二人は美咲を抜きにして遊ぶ事に決めた。



第二十七話…全ては健司が誘ったトランプが始まり。
睡魔に襲われる美咲。健司・充も同様。
翌朝目覚めると美咲と充は同じベッドに眠っていて―
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