第25話<修学旅行>

 二人は少し歩いて、美咲と詩織の待つ場所の近くまで来ていた。
 そこで充の足が止まった。見れば口が開きっぱなし。

「あ然…ですか?」

「金持ちはやる事が違うな。嬉しい…けど、あの付属品はいらないなぁ」

 そう指差したのは美咲の目の前に立っていた越川だった。

「あれは俺も用意した覚えはないぜ?」

 健司は腕を組んで悩んだ。

「だろうな」

 その健司の姿に、充はふと笑った。



 それにしても、充から見る越川はとても嬉しそうな顔をしていた。

「早く行こーよー」

 健司が皆のいる場所まで連れて行こうとする。
 すると充はそれを拒否した。

「いいよ。俺ここからで…」

 ただ、遠くで見ているだけでいい。
 そう思ったからだ。
 近くに行ったら…緊張する―

「でも…充来るって言っちゃったし。ごちゃごちゃ言わずに、早く行くぞ」

 健司はまた充を誘導した。
 歩きながら、充が健司に声をかけた。

「なぁ…何て声かければいい…?」

 健司は目をまん丸に開いた。
 まさか、充がこんな事を聞くとは―

 充が今まで付き合った女が可哀そうに思えた。
 俺に相談するほど真剣でなかったということなんだろうな。

「…いや、お前が思ってること素直に言えば…」

「素直?…『似合ってる』とか?」

「そう思ってるなら…な…」

 充は緊張していた。
 それに気付いたようで、健司がこう聞く。

「心の準備は大丈夫か?」

「おう…」

 そんな充がとても新鮮で、しかたなかった。
 健司はまた楽しそうにスキップをしながら美咲を呼んだ。





「あっ健司君!とお兄ちゃん…だよ。詩織!」

 詩織に充の存在を教えた。

 時々、自分は嫌な奴だと思うときがある。
 詩織の気持ちは知っているのに、自分の気持ちは詩織に教えられない。

 相手が兄でなかったら、真っ先に詩織に教えていたのに―

「偶然だね、越川君」

 健司が言う。

「うん…偶然、美咲を見かけて…」

 そう言う越川はずっと美咲を見つめている事に健司は気付いていた。

 詩織は、というとこちらもまた充を見つめて、充は…美咲を見つめて…

 この循環の輪の中に自分はどこにも属していないんだ…
 健司は少し悲しくなっていた。

「健司君、行こうよ!」

 そう言って手を取ってくれた美咲。
 手に触れられた時、健司はドキッとした。
 充の表情を伺うのが面倒になって、二人、先に行くことにした。
 三人が後ろから付いてくる。

「美咲ちゃん、俺といていいのかよ」

「だって、詩織はお兄ちゃんにとられちゃったし。
 越川君はもともと誰かと来てたんでしょ?余り者同士仲良くしようよ」

 美咲はニッコリ笑った。





 初詣から半月が経った。

 冬休みも明け、美咲たちの通う学校ではこの頃に修学旅行へ行く。
 この日はちょうどその初日だった。

「修学旅行がこの季節ってどうなの…」

「でも、スキーってこの季節しかできないんだし」

 詩織の問いかけに美咲が答えた。

 二人は足にスキー板をつけ、ペンギンのようにぺたぺたと雪の上を歩いていた。
 半分サボりぎみだった二人の横を滑らかにスノーボーダーが滑って行った。

「美咲!今の越川君だよ!!凄いねー」

「かっこいいね」

 詩織の言葉に美咲もうなずいた。

 その瞬間、二人は後ろから雪をかけられた。
 見るとそこには健司がいた。

「俺のが上手いし」

 少し怒っているように感じた美咲だったが、それは無視しておいた。
 そしてかけられた雪を払いながらこう言った。

「健司君…びっくりするじゃん」

「…ごめん」

 健司は素直に謝った。

「あれ、橋川君は?」

 充が気になるようで詩織は健司の後ろを探していた。

「あいつスキーやったことねぇから。
 でもあいつ飲み込み早いから怖いわー。もう滑れるようになってるハズだよ」

 健司がそう言った瞬間だった。
 この3人の脇をまたスノーボーダーが滑って行った。

「うわっあれ充だ…」

 健司は驚いた。

「え?!初心者なんでしょ…?」

 その言葉に詩織も驚いていた。

「…やっぱり私もボードやりたかったー」

 美咲は充をうらやんだ。

「何でやんなかったの?選択制だったのに…」

 健司の問いかけに詩織をチラッと見た。
 その意味に健司も気付いたようで「そっか」と言った。

 ボードとスキーの選択制を知った美咲は、ボードを選んでいた。
 しかし、詩織は『私と一緒にスキーにしようよ!初心者でしょ?!』と言い、強制的にスキーに変えられてしまった。

 美咲は確かに初心者だったが、ただボードがかっこいいという理由だけで選んでいたのもあって、詩織の意見に素直に応じたのだった。

「ねぇ、健司君も滑れるの?見せてよ」

 美咲がニコッと笑顔を見せた。
 すると健司はやる気を出したようで、目を輝かせてゴーグルをつけ颯爽と雪道を降りて行ってしまった。

 坂を下り終えた健司は、その先にいた充と少し話をして、美咲たちのほうを向いて手を振った。
 詩織と美咲も同じように手を振り返した。


 美咲のその姿を見て、詩織は疑問を抱いた。

「…ねぇ美咲って…健司君のこと好きなの?」

「え?」

 美咲はそれにただただ驚いた。

 『好きなの』…?
 それは恋愛感情があるか?と問われてるのだろうか…

「そうなの?!」

 詩織は驚いていた。

 自分で言っておいて…
 美咲はそう思ったが声には出さなかった。

「でも恋愛感情じゃないと思うよ。」

「えー本当?」

 だって私が恋愛感情を抱くのは―ただ一人だけだから…



第二十六話…美咲が修学旅行中の松尾家。
健史は美咲がいないだけで充に関係しているのではと思ってしまう。
それは自分のしたことをもう一切思い出したくないから―
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