第24話<期待> | ||||
夜になった。 美咲も詩織も好きな着物の柄を選んでそれを着付けしてもらっていた。 「わー美咲それ似合うよ!」 「…ありがとう。詩織も似合ってるよ」 美咲は恥ずかしそうに言った。 「はい出来ましたよ」 そう言ったのは着物を着付けてくれた優しそうなおば様だった。 「ありがとうございます」 二人がそう言うと、すぐにドアの音がした。 詩織と美咲がそちらを見ると健司だった。 二人の姿を見るなり健司はこう言う。 「おお。二人とも似合ってるねー」 健司はニコッと笑った。 「ねぇ健司君!橋川君はちゃんと呼んだ?!」 「え…?お兄ちゃん来るの?」 美咲は詩織を見た。 私は聞いてないですけど… 「ダメだった?“お兄ちゃん”なんだからいいじゃんかー」 健司がおどけて言った。 まぁ確かにこのメンバー的に来てもおかしくないか… それでも何だか心の準備が―と思うのだった。 「そうだよ」 詩織も健司の言葉に同意する。 「充は現地合流だけどね…まあとりあえず行こうか。」 スキップでもしそうな勢いで健司が先頭を行く。 その後に詩織、美咲と続いた。 外に出ると、いつの間こんなに暗くなったんだ? そう疑問に思った。 朝、健司がこの坪井家に美咲を連れてきて以来。 3人はずっと一緒にいた。 健司が着物を出して見せてくれたり… ご飯を3人で食べたり… それはそれで楽しいものだった。 車に3人が乗り込み、健司はまた運転手の山野さんに行き先を告げた。 「いやー人いっぱいだねー!!」 車を降り、近くの神社に着くと、そこには既にたくさんの人がいた。 「健司君楽しそうだね」 美咲が健司に言う。 「そりゃそうだよ。俺女の子連れて初詣来たの久しぶりだし」 『久しぶり』… その真相が聞きたかったが、それは今度聞くことにした。 それにしても充がこの場に来る、それはとても緊張する。 この姿を見て充はどう思うんだろうか。 何も思わないかもしれないけど… ただ嘘でもいいから似合ってるとでも言って欲しい。 美咲はそう願った。 「あっ充が着いたみたい。 このことまだ充には言ってないんだー!ちょっとここで待っててね」 健司は携帯を見ながらそう言った。 そして、すぐに人ごみの中に消えて行ってしまった。 『このこと』 美咲と詩織が着物でここにいることだろうか? 「橋川君が来るなんて…私本当…緊張して心臓バクバクだよ…」 詩織が言う。 そうか、詩織も充のことが好きだったんだ… 美咲も同様心臓が高鳴っている。 でもそれを詩織には言えなかった。 着物を着て会うだけだというのに… 何を緊張することがあるだろうか。 それは少しでも何かを期待しているからなんだろう。 そんな期待などしない方がいいのに…。 まさか、こんなところで会えるとは― 冬休みに入ってからずっと美咲には会えずにいたから… 今年はもう会えないと思っていたのに… こんなとこで会えた― 「おい、越川?どうしたんだ」 越川は一緒に来ていた友達の声にも気付かず美咲の姿を見つめていた。 すると越川は突然思うまま歩き出した。 「越川?!」 友達を残し、越川は一人、美咲のいる場所まで行ってしまった。 「ねぇ美咲、私…すっごい緊張するー」 「ははは詩織、そんな会うだけなんだから…」 そう、会うだけ… 会うだけだというのに、私もまた緊張している。 私だって人の事言えないのに― そんな時だった。 「美咲…」 男の人の声にびくっとした。 しかし、見上げればすぐに違うとわかった。 「ごめん…美咲が見えたから…声かけちゃったけど…」 美咲の表情の変化に越川は気づいているのだろう。 「え?いいよ全然声かけてよ」 美咲は精一杯笑顔を向けた。 越川は何かに気付いた。 美咲は…もう俺の手に入らないかもしれない。 もう彼女には誰か一人しか見えていない…。 「美咲…着物すごく似合ってるよ」 美咲には好きな人ができた。 なのに俺はまだ美咲が好きで… 俺はもう美咲を不幸にしたくない… ちゃんと諦められるのだろうか。 越川は悲しい現実をちゃんと理解した。 「あ、ありがとう」 『着物すごく似合ってるよ』 嬉しかった。 越川の表情が少し曇ってるのに美咲は気づかなかった。 ただ充のことしか考えていなかった。 「お。充ー!!!!!」 充は顔をあげて、こちらに向かってくる健司に手を振った。 「今日、お前に誕生日プレゼントがあるんだ」 「誕生日プレゼント?」 「今日だろ?誕生日。 大晦日の誕生日なんてそうそういねぇからな。インパクト大でかなり覚えてたぜ」 健司は充を目的の場所まで誘導していた。 「何だよプレゼントって…」 あまり期待はしていなかったが、気になってはいた。 いつも健司の行動は予想がつかないから―と。 |
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第二十五話…前半は初詣続き、後半は修学旅行のお話w 健司君にも恋が芽生えるかな?!お楽しみにw
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