第23話<車> | ||||
皆忙しかったクリスマスもいつの間にか過ぎていたある日の事だった。 ピンポーン 朝、その音が鳴ると、また奴だろうか。 あのテンションに流されてしまわないだろうか。 美咲はいつもそう思ってしまう。 恐る恐る、とまではいかないがドアをゆっくり開けてみる。 「やっぱり…」 そこにいたのは美咲の思った通りの人、健司だった。 「何々?!美咲ちゃん俺が来るって予想してた?!」 「この時間、チャイムが鳴るといつも健司君が立ってたし…」 そう言いながら美咲は呆れた顔を見せた。 「あ、でさ―」 即座に話題が変わる。 美咲はいつものことだと思い健司の話に耳を傾け始めた。 「ちょっと…来てくれない?」 「え?どこに?」 「今日大晦日じゃん」 「うん…あ、忘れてた…掃除しなきゃ!!」 美咲は口に手を当てて慌てふためいた。 それを見て健司は美咲の腕をぐっとつかみこう言った。 「それ今度にして…」 「…でも大晦日だからなぁ…」 「うん。今度にして。」 なぜか健司が怖かった。 口調が強い健司を初めて見た気がした。 「とりあえず、ちょっと来て。ワケはあとで言うからさ」 気になる…。 健司の言動にはいつも驚かされたからだろうか。 少し楽しみ混じりで行くことに同意した。 「それ、すぐ終わる?」 「ううん。 夜から始まるから家族の人にちょっと遅くなるとでも言っといて」 一体…何なんだ。 夜から始まるもの… 肝試し…じゃあるまいな。いや、それは夏の風物詩― 美咲は何も予想できなかった。 二人は玄関を出た。 目の前には車が一台止まっていた。 この狭い路地に止まる車は滅多にない。 美咲は珍しそうにそれを見ていた。 すると、健司がその車のドアに手をかけた。 「健司君の車?」 少し冗談混じりでそう問いかけた。 「うん。」 「え?!金持ち…」 「でもまだ免許取ってないから…運転手付だけどね」 そうか。 もう私達はもう免許の取れる歳になったんだ。 美咲は歳を取ったことを感じていた。 しかし…。 よくよく考えてみると少しおかしい事に気付いた。 「運転手…?」 「まあとりあえず乗って乗って」 健司は何気なく話を逸らした。 「じゃあ家までよろしく」 「はい、かしこまりました―」 健司君って…金持ちだったんだ…? 「俺ずっと言ってなかったんだけどさ…」 「うん?」 健司は何を言うのだろうか。 美咲は興味津々だった。 「俺ぶっちゃけ…ちょっと金持ちなんだよねー」 ニコッ っておい。 美咲はそんなツッコミをついつい入れてしまいそうだった。 「…だからこんな車持ってるんだ…」 「小さな会社なんだけどねー。一応社長の息子だから…」 …知らなかったな。 「ちょっと待って…苗字が坪井…坪井…坪井」 「うん…連呼しすぎ… 会社の名前はね、坪井株式会社。小さな店を出してるんだよー。」 「へぇ。」 初耳… 会社名はピンとこなかったけど、出店する店の名前は聞いたことがある。 いずれ健司もその跡を継ぐのか。 身近にこんな金持ちがいるとは美咲は思ってもいなかった。 「本当は言いたくなかったんだよねー…」 「どうして?自慢になるのに」 「中の上程度の金持ちなのに、そんな皆が集まってきても困るしね!」 そんな話をしながら坪井家に着いた。 もちろん家も中の上くらいの大きな家だった。 結局、健司はなぜ美咲をここに連れて来たのかは言わなかった。 ただ何かを企んでいるとしか美咲にはわからなかった。 「さあさあ。中に入ってー」 健司の言葉に促されて美咲は坪井家へと足を運んだ。 「じゃあここで待っててねー」 健司がドアを開け、美咲はその部屋へと入った。 ドアを閉め、健司は別の部屋へ。 美咲は通された部屋を見まわし、驚いた。 「…何で?」 それが第一声だった。 そこには思いもしない人がいたからだ。 「あ、美咲!久しぶりだね」 「…そうだね。詩織、何でここに…」 その部屋のソファに詩織が座っていた。 “お金持ちの家”をとても満喫している様子。 「まあ美咲、ここに座って」 詩織は坪井家の人間かのように美咲をソファに座らせた。 とりあえず美咲はそれに従って詩織の前の椅子に座った。 それを見て詩織が言葉を続けた。 「健司君が着物着せてあげるって。初詣行けるでしょ?」 「あ…そうなんだ」 「聞いてなかったの?」 「うん…」 やっぱり健司君の家って…中の上じゃないよ…普通に上だよ。 「初詣楽しみだね!美咲」 『着物を着せてあげる』だなんて普通の人間にはできないよ…? |
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第二十四話…期待…初詣に行きまーすw 充は大晦日が誕生日なんですねー。 健司が用意してくれた着物を着て、美咲は充に対面w
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