第20話<兄の過去>

 美咲は携帯を取り出し、健司に壁紙を見せる。

「これがお兄ちゃんって知ってたの?」

 健司はふと笑ってこう言う。

「だって俺、充と幼稚園から一緒なんだよ?」

 え―どういうこと?
 美咲が思っていたことを見透かしたかのように健司が続ける。

「幼稚園からずっと一緒んとこ通ってるんだ」

 幼稚園のアルバムに健司の名前なんてあったろうか?
 いや、健司がいた記憶もないし…

 そう悩んでいる美咲に健司がまた一言付け加える。

「もちろん俺と美咲ちゃんは同じ幼稚園じゃない。
 もしそうだったらもっと早く仲良くなってたもんねー」

 まるで美咲が自ら答えを出すまで教えないようだ。

「…じゃあ…お兄ちゃんが引っ越して、
 それから通った幼稚園に健司君がいたってこと?それしか考えられない…」

 悩みぬいた末、美咲は答えを見出した。

「お。さすが美咲ちゃん」

「ふーん…だからか」

 美咲は幼稚園のアルバムを思い出した。

 住所欄には充の名前がなかったのが謎だった。
 しかしこの前病院で聞いた、引っ越しのことを。
 それなら名前が載らないだろうし…
 これでやっと謎が解けたと美咲は思った。

「『だからか』って何?気になるー」

 興味津々に健司が聞いてきた。

「…でね、健司君」

 『だからか』の意味が気になる健司を無視して美咲は話題を変えた。

「何々?!美咲ちゃん?!」

 シッポを振る犬のように健司は美咲に詰め寄る。
 とても嬉しそうだ。目が輝いている…

「…あ、のね…お兄ちゃんまた同じようなことになりそうなんだ…」

 健司の目は丸々と大きくなり、真剣な顔つきになった。

「どういうこと?」




「橋川君って美咲のこと本当好きだよね」

「…え?」

 充はドキッとした。
 どこかでバレるような行動でもしただろうか…?

「ずっと見てればわかる。
 美咲ばっか見てるんだよ。心配なんだね、のことだもんね。」

 詩織は充に笑顔を向けた。
 どうやら肝心なところはバレていないようだ。

 それにしても気をつけないとな―

「…美咲には内緒ね」

「恥ずかしいの?」

 ふふと詩織は笑った。

「まあね」

 詩織は充と二人だけの秘密ができたと少し喜んだ。

「でも健司君なら安心だと思うよ。橋川君の友達なんだし」

 充が思っていたことを詩織も言った。
 やっぱり健司に美咲を任せよう…

 充が頷くと、詩織がもう一言付け加えた。

「お似合いだよ二人は」

 お似合い?美咲と健司が…?
 どうして?どこがだよ、俺の方が―って俺は兄貴だから対象でもないんだった。
 嫌でしかたない。
 美咲はどう思ってるんだろう―俺を選んでくれ…

 充の思いは知らぬまま、詩織は続ける。

「私が言える立場じゃないけど…
 美咲には嫌な思いさせちゃったからな…幸せになって欲しいんだ」

 それは俺も同じだ…できれば俺が幸せにしたかった。
 あいつの兄じゃなければ―




「お兄ちゃん…転校させられそうなんだ」

「…嫌だー!!」

 突如、健司は子供のように駄々をこね始めた。

「…いや、健司君。私に駄々こねられても…」

「そうだね…でも美咲ちゃんはどうなの?何かそれについて言ってあげた?」

「…え?まぁ…」

 少しだけ恥ずかしい思いをしたが、言った。

 面と向かって『貴方が大好きで離れ離れになりたくない』…ぐらい言ったっけ?
 とにかくそんなことを言った。
 でも良かった、兄妹という口実があって…
 もしそうでなかったら本気の告白だと取られていただろうな…
 …それより前に出会えてなかったのかもね…
 兄妹でよかったのか、悪かったのか…私にはよくわかんないなぁ…

「じゃあ大丈夫だよ」

 また健司は絶対の自信を持って言う。

「…何それ…私が言っただけじゃ…だから健司君からも言っといてよ」

「はいはぁい。一応言っとくよ」

 いいんだ。
 あいつ結構シスコン・・・・だろうから!
 美咲ちゃんが転校して欲しくないって言えば大丈夫だよ。
 健司は心の中で思うのだった。


 いつの間にか、空はすでに赤みがかっていた。
 落ち合った4人は、「もうそろそろ帰ろうか」という健司の言葉で解散をした。

 健司・充と美咲・詩織は二手に別れて帰って行った。
 男二人は細い路地を歩いていた。


「今日は楽しかったな!」

 健司言う。

「…そうか」

 充は適当に返事をする。

 詩織といるのがつまらなかったわけじゃない。
 だが美咲をちょこちょこ気にしていたのも事実―

 そんな充を見て健司はこう言う。

「『お前は美咲といてよかったな』?」

 充はハッと思い、健司を見た。

 自分が思っていた事と同じことを健司は言った。
 まるで心を読だかのように…

「な…何言ってんだ?」

 充は冷静を装う。
 しかし驚きは隠しきれずにいた。

 健司は意外なところで鋭いから…
 ばれてるのかもしれない…
 いや、俺がわかりやすかったのか…?

 充は今日、エレベータで健司が美咲を抱き締めようとしたときを思い出していた。

「お前は今そう思ってるんだろうなーって思って」

「俺はシスコンか」

 ふと笑い言う。

 どうか気付かないでくれ…
 俺の気持ちに―

「確かにシスコンにしては執着―」

 その言葉で充は足を止めた。

 健司はもう気付いている。
 俺が抱いている感情に…

「もう言うな!」

 健司は目を見開き、充を見た。
 初めて見る充の取り乱した姿がそこにはあった。

 少し冗談交じりで言ったつもりだったが…
 何をこんなに怒っているのか?―

「…俺はどうすればいい…?」

 充の訴え…今までの記憶の中で、点と点が繋がった。
 ―健司は全てを理解した。



第二十一話…充の勘違いで健司に自分の気持ちを知られてしまいましたなぁw
ダメじゃん…充君。
美咲ちゃんは充の母(景子)に会いに行きますよぉw
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