第19話<デート>

 俺が美咲を守る―なのに…二人の行動がそれを揺るがせる。

 なぜ、健司と美咲が楽しそうに手を繋いでいるのか。
 それが全くわからない。

 俺が健司に嫉妬をしてしまう…
 いいよな、健司は美咲の兄貴じゃなくて…
 こんな公の前で堂々と手を繋げる―

 充は美咲と兄妹である運命を恨んだ。


「ごめんねー。美咲ちゃんを迎えに行ったら遅くなっちゃって」

「え、私のせいみたいじゃん…」

 二人は手を繋いだまま、笑い合っていた。
 まるで恋人のよう…

 俺の知らない間に…
 こんなに二人は…親しくなって―

 充は二人の手を見ていた。

「実際そうでしょ」

「いや、健司君が来たから遅くなったんだよ」

「はい、人のせいにしないようにね。美咲ちゃん」

 美咲がムッと怒っていると、健司は充の視線にやっと気付いた。
 充は美咲と俺が手を繋いでるのが嫌なのか。
 それとも羨んでるのか?

 どちらにしてもシスコン、それはそれで面白いと健司は思った。
 繋いだ手については充から聞いてきて欲しいと思い、健司からは何も言わないことにした。

「なー、今日はどこに行くんだ?」

 健司が充と詩織を見て言った。

「ショッピングとかでいっかなって思うけどどう?」

「えっ、詩織行きたいとことか何かないの?!」

 美咲が聞くと詩織は美咲に近寄り、耳打ちをした。
 私は橋川君と一緒だったらどこでもいい。
 耳元で言われた台詞。

 どんだけ兄が好きなんだよ。
 それが微笑ましく思えた…そして羨ましく思う。

「じゃー早く行こう!」

 健司のその言葉で4人は歩き出した。
 充一人だけ前を歩いていた。
 それが寂しそうに見えた美咲は、詩織をその隣に行かせることにした。

「前行ってあげて」

 その一言で詩織は充の横へと向かう。

「何かダブルデートみたいだよね」

 詩織が充の隣に行くと健司が言う。

「…それ私も思った。」

 二人は手を繋いだまま、会話をする。
 どこからどう見ても二人はカップルに見えるだろう。


「あ、っていうか充って嫉妬深そうだよ」

 突如、健司が全く関係のない話をし始めた。

「え?そうなの?」

「うん。絶対そうだよ。」

 健司はなぜか絶対の自信を持っているようだ。
 そんな他愛もない話をしながら4人は目的地へと向かった。



 到着すると早速健司がこう言う。

「じゃ、別行動しようか!」

 その言葉に詩織がすぐに反応する。

「そんな…4人で来た意味ないじゃん!」

 充と二人きりになるのが嫌そうだ。
 そりゃあいい意味でなのだが…

「え…でもデートの意味がないじゃん」

 美咲言う、それを見ていた充が口を開いた。

「健司と美咲は二人きりになりたいんだって」

 その言葉に美咲は驚く。

 何言ってるの?
 お兄ちゃん、私と健司君が付き合っていると思っているの…?

 その時の充が無表情に気付いたのは健司だけだった。

「別にそんなんじゃ―」

 美咲が否定をしようとしたが、すぐに詩織の声で消されてしまう。

「そうだったの?!」

「だから違うって!」

 しかし、詩織は聞く耳を持たない。

「だったら…しょうがない。正直にちゃんと言ってよねー」

 遠まわしじゃわかんないんだから。
 まるでそう言っているようだ。

 どんなに否定をしようと詩織は美咲の話を聞かない。
 それは充も同じだ、健司は思った。


「じゃ、行こう。美咲ちゃん」

 健司が美咲の腰に手を回し、目の前に見えるエレベータへとエスコート。
 この展開が面白く思い、健司の顔はニヤニヤしていた。

 これを充はどう捉えるんだろう?
 どれだけシスコンなんだろうと、ただの興味によるものだった。

 二人はエレベータに乗り込んだ。
 そして、美咲はこちらを見ている充と詩織に笑顔を向けた。
 頑張って、という意味を込めて―

 一方の健司は不敵な笑顔を浮かべていた。
 充はそれを不審に思い、エレベーターを見ていると驚くべき行動をするのだ。
 密室の、二人きりのエレベータの中で美咲を抱き締めようとしていた。

 また笑みを浮かべる健司。
 ちょうどその時、扉が閉まった。

 目の前で親友と好きな女が抱き締め合うのを見せられるのはとても辛い…。
 充は、それを止めたかったが扉が閉まってはどうにもできない。

 しかし、充はよく考えてみた。
 俺が止めてどうする。
 美咲に一番いい相手は健司かもしれない。
 健司なら安心して任せられる。
 充は一人納得した。

 詩織は、というと充の横で周りの店を物色していた。
 今までの出来事が見られてなかったことに充はホッと安心した。

「詩織ちゃんはどこに行きたい?」

 充が詩織に話しかける。

「あ…じゃあ、あの店に…」

 恥ずかしそうに詩織は答えた。

「じゃ、行こうか」

 充はそう言うとニッコリと笑い、手を差し出した。
 詩織は驚いたが、充の笑顔でその意味を確信した。
 充の手に自分の手を乗せた―。





「どうしたの健司君?」

 扉が閉まってからのエレベータの中では健司が美咲に寄りかかっていた。

「虫がいたからね、美咲ちゃんから守ってあげようかと思って」

 そんな話は全くの嘘だ。
 本当は抱きしめようとした、それも充への見せかけだが―

「本当?ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 ちょうどいいタイミングでエレベータが止まった。
 止まった階に降りると、フードコートを見つけた。
 二人はとりあえず、そこの椅子に座る事にした。

「どこの店に行きたい?」

「…うーん健司君の行きたいとこでいいよ」

 悩んだ末、美咲はそう答えた。
 健司にとってはいい答えではなかったようだ。

「むー。じゃーこのままばっくれる?」

「…いーけど…詩織が怒るからなー」

「じゃあさ、お喋りしようか」

 健司は真剣だった。

「何について?」

「充の事」

 健司のその言葉に美咲は顔をしかめた。

「…お兄ちゃんの何を話したいの?」

 美咲は健司の顔をじっと見た。
 この人の方が兄の事を知っているというのに…

「うーん…何でもいいよ。幼稚園時代とか、色々ね?」

 健司はニッコリと笑った。

 美咲は思う。
 この人は前見せた携帯の壁紙の男の子が誰かわかってるんだ。
 橋川充だという事を―



第二十話…充の辿った道を美咲は知り、健司は充の転校話を知るのです。
そして、デートの帰り道のこと…健司は充が自分に嫉妬しているのを理解していて…
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