第17話<初対面> | ||||
松尾健史。 美咲と充の父親… 彼はとある病院の病室のドアを叩いていた。 コンコン 病室の中から「はい」という声が聞こえ、健史はドアを開けた。 「あら。橋川さんのお客さん?初めて見る顔ね」 そう言ったのはその病室の患者の一人。 どこが病気なのだろう、と思うほどふくよかな40代の女性。 その女性のベッドを見ると「岡山」と書いてあったのを健史は横目で見ていた。 「はい」 「橋川さんはあちらよ。 あなた旦那さん…かしら?私は隣の部屋に行ってるから!ゆっくりねー」 岡山は長く入院している景子だが旦那の話を聞いたことはなかった。 むしろ話したくないような素振りだったのを思い出した。 問題のある関係…?と思ったからこそ、すぐに部屋を後にした。 ふと健史は病室の外で名前を見たとき、名前が二つしかなかったことを思い出した。 この病室は二人しか患者がいないのか。 健史はそれを頭の隅に置いておいた。 岡山が指差していた右奥のベッド。 そこには一人の女性が背を向けて横たわっていた。 「景子」 健史はその女性をそう呼んだ。 その女性は健史を見ると、目を見開いてこう言う。 「…どうして…?」 「お前が会いたいって言ってきたんだろ」 「でも…本当に来てくれるなんて…思わなかったから―」 景子は涙を流した。 ずっと会えずにいた愛しい人に会えた… いつ消えるとも知れぬこの命…だけど、これなら死んでも悔いはない― 「お前…どこが悪いんだ?」 「…軽い病気です…」 慶子はとっさに嘘をついた。 もう迷惑はかけまいと思ったのだ。 「美咲と充が…同じ高校に通ってる」 え? 健史の言葉に景子は驚きを隠せない。 「―ごめんなさい…すぐに転校させます」 「…そうしてくれ」 「私は貴方にとって貧乏神ね。いつも不幸をもたらす…」 景子は下を向いて悲しい顔をしていた。 健史は慶子の言葉に納得したのか、ふと笑い言う。 「じゃあな。頼んだぞ」 背を向けて健史が去ろうとした、その瞬間だった。 ガラッ 扉が開く。 健史と景子には予想もつかない来客者― 「美咲?!どうして…」 健史は驚くばかりだった。 景子は美咲をじっと見据える。 この子が…和美さんの娘…? 「ごめんなさい、お父さんをつけてきたの…」 また、美咲の後ろにもまた来客者が来た。 それは充だった。 彼はバイトのはずだったが、すぐに交代が来てあがっていいと言われたのだ。 美咲の後姿を見て、なぜ彼女がここにいるのか、とても疑問を感じていた。 また、不安も感じている。 美咲を傷つけたりしていないか…と。 実際母が美咲をどう思っているのかわからない。 憎い存在であることに変わりはないだろうが。 中で何が起こっていたのか、さっぱりわからない。 充が病室の中をちらと見てみれば松尾健史がいるのがわかる。 憎悪の気持ちで彼を睨んでいると、目が合ってしまった。 「充…」 健史はそう呟いた。 その言葉と同時に景子と美咲は充の方を向く。 "ありえない"としか言いようがない。 この4人が同時に会う事なんて、誰も予想などしなかっただろうに― 充は美咲の横を強引に割って入った。 目が健史の方を見たまま動じない。 「何で…何で来たんだよ!…何で…いるんだよ…」 横から景子が申し訳なさそうに謝る。 「充…健史さんは…私が呼んだの…ごめん、充」 「…しかも何で美咲まで…」 充は健史が美咲を連れてきたと思った。 連れて来た理由もわからなかったが、とにかくそう思ったのだ。 美咲と母さんが会ってしまうなんて事、考えもしなかった…。 美咲は母さんの事、どう思う?母さんは美咲をどう思う…? 「とにかく…私は用を済ませた。帰らせていただく。美咲、お前も帰るぞ」 健史は美咲の腕を強引に引いて病室の外へと向ったが、美咲がそれを拒んだ。 「お父さん、おかしいよ…?」 父さんはここに何をしに来たの? 兄を転校させたいが為だけに来たの? お大事にとか優しい言葉はないの…? どういう神経してんの、自分のことしか考えてないじゃん― 「…聞いてたのか?お前、始めから…?」 「何の話だ?」 充は一人だけ、わからずだった。 すると美咲は充に振り返って口を開く。 「お兄ちゃん…転校させられちゃうんだよ―」 一気に幼稚園時代の記憶が舞い戻った あの時も、同じだった。 「充、明日から幼稚園を変えるの。 お家もお引っ越ししなきゃいけないの…だから皆にサヨナラ言ってきなさい」 あの日、母が荷造りしながら言った言葉。 何も知らず、あの時の俺は美咲に別れを言った。 今もあの時と同じ…こうして親が決めたんだ、俺達の別れを― 「お前には関係ない話だ」 父が美咲に言った。 どこが…? 「…関係あるでしょ?どうして関係ないって―」 「子供は関係ないわ。早く帰りなさいよ」 親の問題よ、とでも言いたそうな景子の言葉。 景子は一度も美咲と目を合わそうとはしない。 「…子供は関係ない?なら…どうしていつもお兄ちゃんが犠牲になってんの?!」 おかしいでしょ?それを理解して欲しかった。 そしていつも犠牲になる兄の気持ちが― 「早く出てって!!」 景子は美咲のもっともな言葉にイラついた。 自分でもそれはわかっている。 でも親には親の気持ち・やり方があるの。 だから子供は黙っていなさい。 決して口にはしなかったが、彼女は真っ直ぐな目で訴えた。 美咲はそんな態度にびくともせずに景子を見つめ返す。 その様子を見ていた充。 美咲と離れたくないが、転校はいい機会になるのかもしれない。 離れるのなら、"いつか"より"今"の方が辛くないはずだ。 「先に帰ってくれ」 健史と美咲に向けて言う。 「美咲帰るぞ」 「お父さん!」 美咲に呼ばれても健史は早々と病室を出た。 しかし、美咲は微動だにしない。 「どうして?私は…関係ないの?」 美咲は そんな美咲を病室外に出すのは容易だった。 泣いたままの美咲の腕を掴み、腰に手をまわし、連れ出した。 驚いたが、美咲は予想できていた。 「私、あの人に嫌われちゃったね。好かれてもいなかっただろうけど…」 美咲の指す"あの人"が橋川景子だということは充はすぐ理解できた。 ふと充が周りを見渡すと、健史も、誰もそこにはいなかった。 あの男は娘を置いてさっさと帰ったらしい…。 「それにしても思いもよらなかったよ。 お前がここにいるの…あれから健司と一緒に帰ったと思っていたのに…」 「…あの公園で父さんが病院に向かって歩いてたの。で、着いたのがここ。 驚いた…二人はまだ続いてるのかな?私達どうなっちゃうんだろう…これから」 「ふーん、お前はあいつをつけて来たってわけか。好奇心旺盛だな」 「ありがとう」 褒め言葉じゃないけどな、そう思ったが充は言わなかった。 それから下を向いた美咲が不安を抱えている気がして、充は言う。 「…なるようになるさ…」 「… 「何言ってるんだよ?俺と会う前のお前に戻るだけだろ。」 「そうじゃない…もう私はお兄ちゃんと会ったんだから…戻れない」 その言葉が嬉しかった。 でもダメなんだ、俺はお前を"妹"としてじゃなく一人の"女"として見てる。 「親が決めたこと…俺は変えられない―」 これはいいタイミングだと思う。 お前と一緒にいたい、けど一緒にいれば気持ちがばれてしまいそうで怖い。 なのにお前はそれを引き留めるんだ。 「私、お兄ちゃんが大好きだから―」 涙が出るほど嬉しいよ、美咲― |
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第十八話…転校話…はとりあえず置いといて、デートの日が来ちゃいました。 次回後半部分はデートの話です。やっとですね!デートw
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