第15話<宣戦布告>

 里奈は、遊園地に充と一緒にいた子。
 ならば二人の仲は良いのだろう。付き合っているのかもしれない。

 美咲自身、充と里奈が付き合っていた事実を知らない。
 当時美咲はそれを知りたがったが、充はなかなか本当のことを言わなかった。

「あ!美咲ちゃん携帯教えてよー」

 思いふけっていた美咲に、突然声を掛ける健司。

「うん。わかった」

 健司は勝手に美咲の携帯を開けた。
 その瞬間、驚いた顔になった。

「可愛いでしょ」

 笑顔の美咲。

 もちろん美咲の"可愛いでしょ"は携帯の壁紙を指しているのはわかる。
 健司とここに来る前に撮ったものだ。
 ベッド横にある美咲の小さい頃の写真。
 その隣にいるのは"みー君"。

「う、うん…でもこれ充にそっくりじゃない…?」

「やっぱり…私もそう思うんだ…」

 健司は充の小さな頃も知っている。
 今まで離れ離れに生まれ育ったと思っていたが、幼稚園時代は同じ学校に通っていたのか、と疑問に思う。
 もちろんその疑問は親だ。

 互いの親は同じ幼稚園に通っているのを知らぬままだったが、いつしかそれに気づき、二人は離れ離れになったのか。
 健司は真剣に考えた。

 充への扱いの酷さがわかった。

「私達、仲良かったの。
 最近夢見てね…二人で仲良く笑いあってて…手をつないで、遊んで…」

 その時、オムライスを持った里奈が現れた。

「お待たせしました」

 里奈の声は少し不機嫌そうに聞こえた。



 美咲と健司がオムライスを注文したのを里奈が受けた後。
 里奈は厨房に入った。
 オムライスの注文が二つ入ったことを告げるとすぐに充の元へ行く。

「充君…」

「どうした?里奈ちゃん」

 充は自慢の笑顔を里奈に向けた。

 二人は以前付き合っていた仲だが、今も友達のように接している。
 充は里奈に未練がないのだが、里奈は今でも充が好きだ。

 だからこそ今日の充は昔と違って柔和になった気がする…
 嬉しいのだが、なぜか気に食わない。

「充君、何かいいことでもあったの?」

 いいこと、充は考えたが思い浮かばなかった。
 ただ最近の出来事を思い出せば、美咲を妹と明かしたぐらい。
 それと…美咲に恋愛感情を持っていることぐらいか―

「特にないよ」

「そっか…。
 あっ!あのね。健司君が女の子連れて来てるよ!」

「へぇ」

 誰を連れて来たのか、気になった。
 今日の朝、健司からのメールで美咲の家を教えたが…
 美咲を連れて来たのか?

 充はホールを覗いた。
 里奈は横目で充の反応をうかがっている。

 遊園地に行った時、充は美咲と付き合っていると言っていた。
 それを健司が横取り…?
 そして修羅場になったら、私が充を横取り!
 里奈は勝手に妄想した。

 それよりも充と別れる前、本当に美咲と付き合っていたのならば…。
 里奈はそう考えると腹の中が煮え繰り返る思いだった。
 本当は私と付き合っていたのに…
 そうなればあの時二股をかけられていたということだ…。

 充君、あの美咲って子が本当に好きなの?
 じゃあ好きな子と自分の親友の楽しそうなこの光景、どう思うの?
 嫉妬するの?…私にもしたことないのに―

「ああ、やっぱり美咲か」

 ただその一言だけだった。


 つまらない。
 里奈は思った。


 そして今に至る。

「里奈ちゃん怖いよ?」

 健司が里奈の表情を見て言う。
 すると里奈は美咲の方を見た。
 美咲も『どうしたのか』と疑問に思う。

 すると里奈は美咲に問いかけた。

「…美咲さん?」

「はい」

「…充君とはどういう関係なの?」

「え?」

 健司はオムライスを食べ始める。
 美咲はそれどころじゃない。

 そうか…この子は私が妹だって知らないんだ…。
 里奈は美咲の返答を待たず言葉を続けた。

「充君って…よくわかんなくて…
 ちょっと酷い人かもしんないけど…私、充君のこと好きだから―」

 まるで手出さないで、と言われているよう。
 里奈はすぐに厨房へと姿を消した。

「あの子…充にぞっこんだからなぁ…
 美咲ちゃんのことライバルだって思っちゃったみたい。
 もう、充は両手に花だな!二人とも可愛いんだから…羨ましいわ」

「…私は妹なんだから…ライバルなんかじゃないのに…」

「うん…でも美咲ちゃんに危機を感じたんだよ。」

 健司は美咲の顔を伺った。
 とても複雑そうな顔をしていた。



 オムライスをおいしくいただいた二人は店を出ていた。

「おいしかったでしょ?
 ここの店覚えておきなよ。レストラン・コバヤシだからね!」

 “レストラン・コバヤシ”…
 と言うことは店長がコバヤシさんということか。
 美咲はそんなどうでもいいことを思った。

「わかった。でもお兄ちゃん料理できるんだね」

「え。まあレシピがあるからな。
 これをこう切って混ぜて、炒めて…って詳しく書いてあるのを見てやるからな」

「へぇそっか」

 健司が自転車置き場から美咲の自転車を引いて歩いて来る。
 美咲はそれを待って、すぐに来た時と同じように自転車の後ろにまたがった。

 そんな時だった。

「おい」

 聞き覚えのある、愛おしい声…。
 そんな人、一人しかいない。
 この声を聞くと心の奥底にしまっておいた気持ちがふわっと舞い戻ってくる…。

 健司も美咲も声の方に振り返った。



第十六話…この後、3人は他愛もない話をして楽しむ…
そしてデートの話も。健司がついてくって話をね。
でも美咲は聞いてなくて…―
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