第14話<二人乗り>

 お昼時になった。
 しかし健司はまだ松尾家に居る。
 自分の腕時計を確認したが帰ろうという素振りは全く見せない。

 健司はくつろいでいるようで、テレビを見て笑っている。
 帰ってもらいたいけど…美咲は少しそれを諦めていた。

「そういえば、お母さんとお父さんは?」

 健司が思いついたように問いかけた。
 もっと早く気付いてくれ。美咲は思ったが、すぐにその質問に答える。

「二人とも仕事だよ。」

「お母さんパート?」

「うん。私が大きくなったし、家に一人でいるのが寂しいんだって。」

 美咲が健司とは少し離れたテーブルで、お茶を飲みながら答える。

「へぇ、そうなんだ。なら毎週来ようかな」

 健司はテレビを見たまま、何気なく言う。
 迷惑だなぁ…美咲は嫌そうな顔をした。
 毎週この時間に来られてはゆっくりと眠っていられないし。
 それが嫌だった。

「冗談だよ」

 ふと笑う健司。
 美咲は遊ばれた気がした。
 健司はお構いなしに話を続ける。

「お昼だね。お腹すいたなぁ…食べに行かない?おごるから」

 美咲が時計を見ると、11時30分をさしている。

「そうだね。じゃあ…とりあえず着替えて来るね」

 美咲はまだパジャマだった。
 健司が帰った後また一眠りでもしようと考えていたが、もうお昼…。

 実際こんな姿で男の人をを簡単に家に入れてしまうなんて美咲自身考えられないことだが、健司の場合勝手に入られたわけで、美咲自身も健司を信用していたのだ。
 美咲は自分で納得した。

「はいはーい。覗いたりしないから安心して」


 美咲は二階へ向かった。
 自分の部屋に入った美咲は、ベッド横にある写真をふいに見た。
 寝る前や起きた時、いつもこの写真を見る。

 この男の子"みー君"を兄だと今でも信じている。
 私達は幼稚園の頃から縁があったのだ、そう思いたい。
 いつでも一緒でいたい、そう思った美咲は携帯を取り出す。
 そしてこの写真を携帯の壁紙にすることにした。

 いつでもこの写真を眺められる。
 私達はいつでも一緒…だったのに引き裂かれた。
 親の事情?
 こんなにも仲良しだったのに、当時の私は悲しんだのだろうな―

 美咲は悲しい想いを心にしまい、着替えを済ませ、健司のいる一階へ降りた。


「お待たせ」

 健司はずっとテレビに釘付けだった。
 美咲の声に気付き、携帯、鍵をポケットに詰め込み立ち上がった。

「じゃあ行こうか」

 健司が前を歩き、松尾家の玄関へ向かった。
 美咲はその後に続いていた。

「ねぇ…どこに行くの?」

 美咲がブーツを履きながら健司に問いかける。

「まあ…それは内緒だよ。…ちょっと遠いところだから、自転車で行こうか」

 健司は場所を言いたくないようだった。
 美咲にはそれがわからなかったが、おごると言った健司に従うことにしている。

「健司君、自転車は?」

「あー…歩きで来たんだった。ごめん俺ノープランなんだ」

 うん、そうだろうな。
 美咲は納得した。

「歩きねぇ…」

「美咲ちゃん。俺達は青春真っ盛りの歳なんだからさ!
 二人乗りしようよーこの自転車でさッ!!俺、漕ぐ係りするし。」

 美咲には好都合だった。
 ブーツで自転車はこぐのは大変だし、ブーツを履いていなくても面倒。
 美咲はその話に乗った。

「そうだね…違法だけど」

「おまわりさんに見つからないようにすれば、いいんだよ?」

 いや、よくない。
 だが美咲は自転車の後ろに座り、完全にスタンバイしている。

 風に美咲の髪が揺れている。
 行く場所はわからないが、美咲は楽しみにしていた。
 おごりだし、漕いでくれるし、なんて楽なんだろう。
 それにしても、どこに行くんだろうなぁ―
 早々と変わる風景を眺めながらそう思った。



 それから数十分。
 美咲は健司の行く先を知らぬまま。
 まだ健司は自転車をこぎ続けている。

「ねぇ健司君…まだ?」

 昼飯ぐらいどこででも食べられるのに…。
 こんな遠いところまで来なくてもいいのに。
 そう思う美咲のお腹は、限界に来ていた。

 その時、健司が言う。

「ふふ。よーし着いたよッ」

 美咲はすぐに自転車から降りる。

「健司君早く入るよ!」

 健司は笑った。
 とっても必死で、美咲のその姿はあまり見たことがなかったのだ。

「ごめん…そんな腹減ってたんだね…」

 美咲は頭を縦に振る。

 その店は個人経営のような静かなレストランで、少し歴史を感じる所だった。

 健司はすぐに美咲を中に案内した。
 店内は、意外にもがやがやと賑わっている。
 満席かと思うほど席は詰まっていたが、すぐに通してもらえた。

 席に座るとすぐに若い女性店員が水を持って来た。
 美咲はその店員の顔を見て、どこかで見たような気がしていた。
 とても可愛い女の子だ。

「ご注文はお決まりですか?」

 店員のその声にハッとし思い出した。
 遊園地に兄と一緒にいた子だ―と。
 その時、美咲はショックを受けた。

「注文は…美咲ちゃん、何食べたい?」

 健司にそう聞かれ、美咲はメニューを見た。
 どれもおいしそうだ…
 美咲はメニューの中に見つけた大好物を注文する。
 大好きなオムライス。



 "美咲"という名前に敏感に反応したのは水を運んできた店員。
 とても嫌な名前…彼女はそう思った。

「じゃーオムライス二つよろしくね。里奈ちゃん」

 健司が言う。
 健司君がこの人知ってるんだ、美咲は思う。

「もー健司君…。今こんな大変なんだよ…手伝って欲しいよ…」

 里奈ががやがやする店内を見渡し言う。
 健司は笑い、里奈を厨房へと送り返す。

 美咲は気になった。
 健司と里奈の関係。

「健司君…あの子と知り合いなの?」

「うん。ここで俺も充も働いてるんだ。確か今、充いると思うんだけどなぁ…。」

 健司はそう言いながら、奥の厨房の中をうかがっていた。

「…え?!いるの?」

 美咲は驚いた。

「だと思うよ。厨房にだけど…美咲ちゃん嫌だった?」

 こんなに心臓が高鳴っている。
 兄をこんなにも意識している。
 兄に会うのがこんなにも恐ろしいだなんて―

 美咲はポーカーフェイスを保つ。

「はは。そんなわけないじゃん」



第十五話…宣戦布告…
里奈ちゃんが、充は渡さないわよ的な発言しちゃいまーすw
そうなんです、里奈ちゃんは充と美咲が兄妹ってまだ知らないんですね。
まぁ充とは別れてるわけで教えても的なね…
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