第13話<友達>

 『デートして来たら?』
 自分で言っておきながら、心のどこかでデートしてほしくないと思ってしまう。

 私…おかしい…?
 美咲は自分のおかしな気持ちに気付き始めた。



 昨日、兄妹だと明かした事で今日の学校はその噂で持ちきりだった。

 女の子の中では、美咲を見ると芸能人のように接する子もいたのだ。
 写真をねだられたり、握手を求められたり…
 それをなぜかと問うと、こう言うのだ。

「わぁ!美咲様に声をかけられた!」

 "様"?
 美咲はますます疑問が膨らむが、はしゃぎ過ぎで会話にならない。
 何とか落ち着かせ、話を聞く。

「美咲様は充様の妹だもの!」

 だというのだ。
 まるで兄を崇高する宗教のようだ…美咲は思った。
 マンガやドラマのように校門にたくさんの女の子が待ち受けているなどはないものの、表面上からではわからない兄の人気に、美咲はとても驚いた。
 皆、個人個人で兄を慕っているんだ。

「ありがとう、じゃあね」

 手を振り、その子に別れを告げるとすぐに美咲を呼ぶ声が聞こえた。

「美咲!!」

 それは、つい昨日仲直りしたばかりの詩織だった。

「詩織…」

 美咲は笑顔を向けた。
 すると詩織は言う。

「本当、よーく見ると笑顔が橋川君に似てるわ」

「…あ、そう」

 美咲は詩織の言うことをさらっと流した。
 もう何て答えればいいのかわからなくなっていた。
 ばらしてから、何度そう言われたことだろう。

「でね!橋川君とデートする事になったじゃん…
 橋川君、バイトが忙しいらしいから冬休み入ってからって言われたの」

「そう…よかったね。頑張ってよ!」

 心から頑張ってほしいと願う美咲。
 反面、なぜかわだかまりがある…。

「うん。ありがとう…だけどね!よく考えたんだけど…
 私やっぱり二人きりなんて絶対何も会話できない…だからさ!美咲付いて来てよ」

 美咲は耳を疑った。

「…え?!何言ってるの?私完璧に邪魔者じゃん…
 デートってのは二人きりなもんでしょ?!なんで邪魔者を連れて行くの…」

「いーじゃん、いーじゃん。兄妹なんだから」

 兄妹なんだから?何も良くない…。
 お兄ちゃんのデートなんて見たくない。
 詩織と楽しんでるなんて―ちょっと嫌な気分…

 兄が好きでたまらない、兄が手放せない?
 なんでそんなことを思うのだろう。
 自分の心の中がわからない。

 まさか恋愛感情じゃないだろうね…
 ん?恋?愛…?
 兄の笑顔を思い出したら、なんだか愛おしく思えた。

 弱っている姿も、私に何気なくするキスも、ギュッと抱き締めてくれたことも。
 思い出せば恥ずかしかったり、笑えることもあった。
 その全部が愛おしい。

 これが恋愛感情なのか。
 美咲は理解した。
 自らの気持ちに、そしてその感情に恐ろしさを感じた。
 どうして兄を―

「美咲?どうしたの?」

 ああ、また詩織を裏切ってしまいそうだ。
 もしこの気持ちが知れたら―詩織に嫌われる。
 軽蔑されるんだ…。

「やっぱり二人で行ってきなよ」

 一緒にいなければ気持ちが消えるはず…
 だから絶対に行きたくない…
 二人が笑いあってる姿なんて…見たくないよ―

「私を殺す気?幸せ死にしちゃうよ…」

 詩織の顔は真剣だった。
 しかも冬休みだなんて漠然なものに理由をつけることもできず…

「普通は二人きりなのに…」

「お黙りッ」

 結局しょうがなく付いていく事になってしまった。



 『デート!!して来たら?』
 美咲の友達が俺の事を好きだということには気付いていたから、予想はできた。
 けど、寂しく思う。
 好きな人に言われた、悲しさ。

「充?どうした」

 心配になり健司が声を掛ける。

「いや、俺って冷静な男だよなって思って」

「は?」

 美咲の言葉を聞いた時、俺は気持ちを隠せたのだ。
 だから俺は冷静な男だろう。
 充はそう思った。

 そんな時詩織と美咲が仲良く教室に入って来た。

「あ。仲直りしたんだよな、あの二人。」

 健司が詩織と美咲を見ながら言う。

「ああ」

 充はそっけなく答えた。

「よく見ると美咲ちゃんってすごい可愛いな」

 充はすぐに健司を見た。
 健司はにっこり充に微笑む。
 冷静を装って充は問う。

「…狙ってるのか?」

「はは。はい、お前動揺しすぎ。全然冷静じゃないな。
 でも美咲ちゃんは人気出るんじゃないか?人気者の妹だしな。
 今お前らの噂で持ちきりだし。大変だなお前も。可愛い妹が…野獣達の虜に―」

 健司が美咲を狙っているのかは定かではないが、健司は何か楽しそうだった。



 『美咲付いて来てよ』?デートに?
 本当何言ってるの?詩織は。

 人のデートに付いて行く気なんてさらさら無い。
 だからいっそ当日にドタキャンでもしてやろうと美咲は思っている。

 そして翌日。学校はお休み。
 休日の美咲といえば、結構な時間までお寝んねしている。
 だから家のチャイムを散々鳴らされてもなかなか気付かなかった。
 やっと気づき、起きた美咲はパジャマ姿のまま玄関の扉を開ける。

 太陽がとても眩しいのと眠さが重なり、目を擦りながら見上げてみると…

「やあ。美咲ちゃん」

 挨拶をしている。
 なぜこの人が…ここに…?
 そう思わずにはいられない。

 ただ今、朝9時頃。
 いつもの休日なら美咲は睡眠中。

「パジャマ姿なんて他の人に見せたら襲われちゃうぞ!
 で、なんで俺がここにいるかって聞きたいでしょ?
 うーん。充に聞いたから!でいいかな?…この答えじゃだめ?」

 聞きたいこと全て自ら喋ってくれた。
 寝起き過ぎて、美咲は頭の回転が追いついていなかった。

 目の前にいるのは充の親友、坪井健司だ。
 『あの人の友達が…こんなキャラだとは…』
 美咲は驚いてしまった。

 それより朝からハイテンションの健司は、美咲にとって少々厄介な人間だった。

「美咲ちゃん?さっきから何も喋らないけど…どうかした?」

 『どうかした?』じゃない。
 他人の家なのに…自分の流れに持って行ってる…

 健二とはあまり言葉を交わしたことはなかったがこんなテンションの高い人だとは思わなかった。

「あの…健司君だよね…」

「おっ正解。そりゃあ兄貴の友達だもんね!」

 それよりも…なぜ健司が自分に合いに来ているのかが謎でたまらないのだ。

「何の御用ですか…?」

「そーなの。美咲ちゃんに話があって…とりあえず、中でゆっくり話そうか。」

 美咲の横をすり抜け、靴を脱ぎ、どんどん中に入って行く健司。

 …ここ私の家ですけど…?
 そんな美咲の心の声も虚しく、美咲は健司の後姿を見ているだけだった。

 リビングについた健司は勝手にソファに座っている。

 美咲は面白い人だと思いながらも、キッチンでお茶の用意をすることにした。

「あ、気が利くねー。いい奥さんになるよ!」

「ありがとう」

 お茶を差し出し、美咲はすぐに近くのソファに座った。
 美咲は健司をずっと見つめていた。
 私に何の用だろうか…。
 健司は美咲の視線に気付いたようで、話を始めた。

「…あのね、充から聞いたんだ。美咲ちゃんの友達とデートするらしいじゃん充」

「うん…それ極秘ね。絶対バレたら詩織がいじめに合っちゃうよ…」

 そう言う美咲を見て、健司は微笑んだ。

「美咲ちゃんは偉いね。充は本当大人気だからねー。
 そんな友達想いな美咲ちゃんの為、例のデート俺もついてくことにしました!」

 一瞬沈黙が流れた。
 何で?
 聞き方次第で勝手に自分で決めたようにも聞こえる…。

「え…」

「嫌なの?」

「いえ、嫌じゃないですけど…」

 “友達想い”の子だと言われて美咲は、とても嬉しく思った。
 けど!『ドタキャンしようと思ってた』だなんてとても言えなかった。

「もー。敬語もやめよーよッ」

 健司はまた一人、美咲の考えている事も知らずはしゃいでいた―



第十四話…健司君がなかなか家に帰らない…
美咲はお腹減って来て、健司と自転車二人乗りしてご飯食べに行くのです。
自転車二人乗りは危険なので、しちゃいけませんよw
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