第12話<友情回復>

 少し走ったところで美咲は詩織を見つけた。

「詩織!」

 美咲が叫んでも詩織は立ち止まったりはしなかった。
 詩織は先をどんどんと歩き、階段を降りていった。
 美咲もそれに続く。

 詩織は一階まで降りると今度は外に出た。

「詩織待って!」

 すると詩織が校舎内にある庭のベンチに座った。
 美咲はその隣に座る。

「詩織、ごめん黙ってて…
 どうしても言い出せなかったの。本当にごめん…」

「意味分かんない…どうして美咲が謝ってんの…?」

「え?」

「美咲は悪くないんのに…私が悪いんだよ…
 私が美咲を信用できなかった…そんな自分が恥ずかしい…美咲ごめん」

 詩織は美咲の方を向いて、頭を下げていた。

「…詩織?」

 驚いたと同時に、美咲は嬉しくなった。

 いっそぶわっと涙を流してしまいたい。
 何とか止めているが、涙は少しだけ零れてしまう。

「美咲?!ごめん本当…」

 その涙に詩織は驚いた。
 しかし、美咲は笑っている。

「…ふふっ。いいよ詩織は悪くないよ。それはそれでいいんだよ。
 詩織があの人の事すごく大切に思ってて、好きなんだってわかったんだから…」

 美咲は心からそう思った。
 そんな美咲に詩織は言い返す。

「『あの人』って…ちゃんと『お兄様』って呼びなさいよ!!」

 詩織の目にも涙が浮かんでいる。

「『お兄様』?!」

 『そんな呼び方しないよ!』
 二人はそう笑いあった。
 美咲は安心した。

 よかった、前の詩織だ―
 詩織は私と笑い合ってくれた。

「美咲」

 その時、美咲を呼ぶ声が聞こえた。
 美咲が顔を上げると、そこには越川の顔があった。

 越川には笑顔があった。
 一方の美咲は、ただただ驚いた顔をしている。

「美咲、ごめん。俺は今でも美咲が好きだよ。でもな、今は保留にしようと思う。」

「保留…?」

「とりあえず、美咲が言うように別れる。
 けど、俺は出直してくるだけだからな。俺はまだまだ諦めてないからな。」

 越川はさきほどの理科室で充が帰り際、一瞬目が合ったのを思い出した。
 その時は気にしなかったが、今は気になって仕方がない。
 橋川のそんな顔は見たことがないのだ。
 笑顔なのに、どこか悲しい顔―

 越川は今ならわかる、と思う。
 充が妾の子だというのが何となく越川には分かっていた。
 その顔はそれによるものだろう。
 越川はそう踏んだ。

「ありがとう」

 とりあえず解ってくれたのだ、と美咲嬉しく思った。

「兄貴の事も幸せにしてやれよ」

 越川はそう言うと校舎へと帰って行ってしまった。
 それと入れ替わりにこちらに来る充を見つけた。

「あ、お兄ちゃん」

 美咲がそう言うと詩織が「え?!」と驚き、充の方を見た。

「美咲、今越川が見えたけど…」

「うん。帰ってっちゃった…」

「大丈夫だったか?」

 越川は充にとって美咲を気づつける奴として認識していた。
 だからこそ心配だった。

「大丈夫だよ。あっ越川君がね、
 『兄貴の事も幸せにしてやれよ』って言ってたけど…いつの間に仲直りしたの?」

 充はふと笑った。
 越川が俺の心配をするような、いい奴だったとはな。

「で、そっちはどうなった?」

 充が美咲に問いかける。
 目は詩織の方を向いている、美咲もそれに気づいた。

 詩織は充と目を合わすと下を向いてしまった。
 それは恥ずかしさによるものだ。

 だが、充は"まだ美咲を許せない"のかと思った。

「美咲は悪くないんだ。頼む、仲直りしてやってくれ…
 その為なら何だってしてもいい。何を言ってくれてもいい」

「お兄ちゃん…」

 美咲はいい兄を持ったと心から思った。
 そして兄の愛を感じた。

「は…橋川君!仲直りします!だから…」

 詩織は何を言おうか迷っていた。
 願い事をまさか自分の大好きな充に叶えてもらえる。
 それだったら―

「デート!!して来たら?」

 そう言い出したのは美咲だったが、詩織もそれを願っていた。

「よし、じゃあ仲直りだな。よかった、な。美咲」

 充は美咲の頭をポンポンと2回叩く。
 それが少し嬉しく、美咲は叩かれたところに手を置いてみた。


 自分が提案したこの二人の『デート』。
 詩織が喜ぶ顔が見たいのは本心…。

 なのに、なのに…

 詩織の嬉しそうな顔、充の嬉しそうな顔。
 それぞれ意味が違うかもしれないが、美咲にはそれが好ましくなかった。

 自分から言い出したことなのに、嫌だと思ってしまった。



第十三話…詩織が…デートについて来いと!美咲にいうのですよ…。
でもどうしてか充のデートを見たくなかった…美咲は詩織に嫉妬するのが嫌で…
それでも詩織は美咲を強制的に連れて行くのです…w
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