第11話<発覚>

「越川君…本当に橋川君とは何でもないよ。」

 美咲の目は真剣だった。
 本当に何もないのだから。
 ただ話していないこと・・もあって少し後ろめたいとこもあった。

「お前が心配なんだよ…美咲…」

 越川が美咲を抱き締めた。

 美咲は驚いたが、越川の髪を撫で、小さな子供のようにあやしていた。

「越川君はいい人だよね。
 私と橋川君が付き合ってるって噂が流れても越川君だけが信じてくれた。
 私の味方でいてくれた。嬉しい言葉も言ってくれた、すごくいい人…。
 そんな人は私よりもっと見合う人がいるはずだよ。だからね、私達…別れよう?」

 私はこの人に別れを告げる。
 今はお兄ちゃんと一緒にいたい。
 二人の空白の17年間をゆっくりと埋めていきたい。

「俺がいい人?ならなんで別れるんだよ!
 俺はいいやつじゃない。解ってるんだろ?
 だからお前と付き合う事ができた。そうだろ?
 もう俺はお前がいないと生きていけないよ…お前をあいつに渡したくない…」

 越川は美咲の目を見つめ、キスを求めた。

「…越川君…?!…ねぇ!!お願い!!やめて」

 美咲は精一杯抵抗した。



 お兄ちゃん、助けて―



「美咲…?」

 気持ちというのは正直だ。
 充の足は無意識に美咲の方へ走っていく。
 美咲がどこにいるのかわからないのに―

 チャイムが鳴ったのにも充は気にしなかった。

 そして理科実験室のドアを開けた。



 越川は突然ドアの音がしたのに気付き、驚いてドアの方を見た。
 チャイムの音も先ほどしたはず授業が始まっているというのに、誰だ?

 越川は美咲とここに来る前に、
 授業が始まるまで理科実験室で勉強させてください。
 そう言って、理科の先生にこの教室を借りていた。
 『越川、熱心だな。一時間目は授業が無いからいいぞ』

 授業が無いのに、誰が入ってくるのだ?

 ドアの人物を見たとき、越川はふと笑った。

「お兄ちゃん!」

 美咲は安堵し、救われた気がした。
 しかしすぐに口を押さえ、自分の言葉にハッとする。

 越川もまた美咲を見てとても驚いた顔をしていた。
 『お兄ちゃん』だと―?

 充は二人の場所まで寄っていた。

「美咲」

 優しく微笑み、充は手を差し伸べた。
 美咲は充の手を掴もうとするのだが、越川がそれを阻む。
 越川は美咲の腕をつかんで離さないのだ。

「越川君、離して」

 安心してか、美咲の顔には少し笑顔が見える。

 その笑顔を見てから、越川は充を見た。
 いつの日か美咲と遊園地に行ったとき、越川は美咲に聞いていた。
 『美咲の笑顔、本当に好きなんだ。誰かに似てるよな…その笑顔、誰だっけ?』
 それが橋川だったことに気付いた。

「な…なんだよ…兄妹なのかよ…?」

「言いたくなかったの…私達、異母兄妹だから…」

「異母兄妹…?」

 越川はハッとした。
 驚いて忘れていたが、二人は確かに名字が違う。

「このことは今日教室でも言う。
 大きく言わないと、隅々まで届かないだろうし。美咲に友達が戻ってくるはずだ」

 詩織のことだ、美咲はそう思った。
 越川は何も言葉が出ない。
 ただ茫然と事を頭の中を整理している。

 そんな越川に充は言う。

「もう美咲に手出してくれるなよ」

 そして美咲の背に手を回し、この教室を出るように促した。

「ま…待てよ!俺と美咲は付き合ってるんだから…
 手出すなって何でお前に言われなきゃならないんだよ!」

 充は何も言わず理科実験室を後にした。



 充と美咲は手を繋いで歩いている。
 互いに言葉は交わさなかった。

 充が教室のドアに手をかけ、一気に開けた。
 教室の視線は一気に二人に向かう。

「二人ともサボりだな!」

 先生の声はいかにも怒っていた。
 二人はつないでいた手を放し、謝る。

「すいません」

「いい。席に戻りなさい」

 先生に促され、二人は席に着いた。

 美咲にとって、女子の視線はとても痛いものだった。
 今回こそ、いじめが始まるのではないかと思うほど。

 充もそれに気付いていた。

 次の放課にでも明かそう。
 兄妹だと明かせば、俺の気持ちも抑えが効くかもしれない。



 数十分して、授業が終了した。
 それと、同時に先生は教室を出、越川が帰って来た。

 充は心を決めた。

「ちょっといい?」

 充が教卓前に出て、クラスに声をかける。
 美咲はすぐに下を向いた。

 言うんだ、そう思った。
 こんな大々的に言われると、とても恥ずかしかった。

「前に松尾と付き合ってるって言ったの嘘なんだ」

 『え?』と言う顔も見えた。
 女子の顔はとても晴れ晴れとしている。
 美咲は手を合わせて心を決めた。

「俺、結構女子から人気だからちょっとそれ利用させてもらったんだ…
 松尾をちょっと不幸にさせたかったんだ。俺の父親は松尾の父親でもあるから―」

「え…」

「俺達、異母兄妹なんだ―」

「異母兄妹…?」

 またコソコソ話だ。
 すぐにでもこの話題は学校を駆けずり回るだろう。

 美咲は立ち上がり、充のもとへ行った。
 『利用させてもらった』それは事実。
 だが…兄には悪者になって欲しくなかった。
 今は大好きな兄だから―

 教室全体を見、頭を下げた。

「…兄は悪くありません」

 悪いのは全て私たちの父親、松尾健史なんだから―

 美咲はどうしていいかわからず、ただただ謝った。
 顔を上げると、ふとある人と目が合った。
 詩織だ。

 詩織は充が好きだった。
 美咲と充が付き合っているという話題が出てから二人は会話をしなくなった。
 彼女はまた美咲の友達として戻って来てくれるのだろうか。

 美咲は詩織から目を離さなかった。

 しかし、その二人の間に男子が立ちはだかった。
 健司他、充の友達グループだ。

「どーりで。言われてみればなんか顔似てるし…」

 美咲が兄を見ると少し笑顔を見せていた。
 少しだけ羨ましかった。

 私もあんな風に笑い合える友達が帰ってこないかな。
 美咲がもう一度詩織を探すと、教室にはいなかった。
 教室を駆け出し、美咲は詩織の後を追った。
 充も心配そうにそれを見送る。

 詩織はもう私と笑い合ってはくれないの?―



第十二話…美咲と詩織の友情が…回復致しますw
そして越川も登場…ですが、例の事件以来反省したらしくて…
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