第9話<小同棲>

「朱里…」

「慶子、感動してんのか」

 ちょうど小松が慶子に朱里の言葉を伝えたところだった。

 その時、タイミングよく豊が現れた。
 慶子はこう言う。

「河邑先生?朱里を不幸にしたら…どうなるかわかりますよね」

 にっこりと笑う慶子。
 それに対して河邑もまた笑顔になる。

「不幸?させるはずがない。」

 その態度に慶子はイラつきを覚えたようで、「その根拠は何よ!」と強く言った。

「根拠…?ねぇな。でも、そんな気がする」

 朱里と同じこと言いやがって…
 いい、朱里が不幸になったら私がこの男を不幸にしてやる。

 小松はそんな慶子のにやけた顔を見てみぬふりをした。





 ガチャ

 そのドアは新居・河邑家のもの。
 とあるマンションの最上階。
 そのフロア全てが河邑家、それほど広い。

 豊は自宅の電気がついているのに不審に思った。

「あ。おかえり」

 そうにっこり笑う…将来の嫁。
 ご飯を作り、豊を待ちくたびれたようだった。

「どうしたんだ…?飯なんか作って」

「何かうちの父が壊れたんですよ」

 は?



 それは2,3時間程前にさかのぼる。
 朱里が家に着くと、そこには父が立っていた。

「ああ、朱里お帰り」

 そんな事は滅多にないことで、朱里はそれを嬉しく思った。

「うん、ただいま」

 そうにっこり笑う朱里を可愛く思う親バカな朱里の父・正志。
 しかし表面では厳しい父だ。
 朱里は靴を脱いで、家の中に入ろうとしたのを正志は阻止する。

「お前には悪いが…今週一週間だけ豊君の家に住んでくれ」

「何それ…小旅行?」

「一度二人で住んでみて豊君が嫌になったら結婚を取りやめにするんだ」

 小同棲でござんすか…
 呆然としていた朱里。

「荷物はあちらに送っておいた…じゃあな、朱里!」

 朱里の背を押し、扉の外へと追いやった。

「ちょっ!!お父さん?!」



 実際、一番朱里を手放したくないのは朱里のお父さんなんだ。

 朱里が父とのやりとりを全て語り終えた時、豊はそう思った。

「一週間だな。わかった」

 勝手に荷物を運び入れられたのは納得いかないが、朱里と一緒に住むよう仕組んでくれたんだ。
 内容はどうであれ、義父に感謝して朱里を楽しませてやろう。

「先生、なぜか知んないけどお父さんが鍵持ってて…
 これ持っていけって合鍵もらったよ。先生、知ってた?合鍵あるってこと―」

 もうどうでもいい。
 親共は勝手に合鍵作りやがって…

 そう思いながらソファに手をつき、朱里の逃げ道をなくした。

「確かに俺達は教師と生徒。
 だけど、こうして同棲するってことはもう“先生”って呼ぶ関係じゃないよな」

「は、はいぃぃぃ…」

 朱里は久しぶりに豊が恐ろしく見えた。
 先生には変わりないじゃん―

「俺の下の名前わかるよな」

「ゆ、豊ですよね…」

 朱里は顔を背けるが、豊は朱里の肩に顔をうずめて行く。

「正解。じゃあ呼べよ」

 その声は朱里のすぐ耳元で低音で囁かれ、息の音まで聞こえた。
 豊のその行動に朱里の心臓は高鳴る。

「豊…」

 豊はにっこりと笑い、「朱里、ご飯食べようか」と話を逸らした。

 突然こちらを見たかと思えばそんな事を言う。
 朱里自身もご飯の存在を忘れていた。
 その気にさせやがって―

 まるでその言葉が聞こえたかのように、豊は笑顔でこう言う。

「続きは後でとするか」

 何だか遊ばれてる気がする…。




第十話…豊さらりと告白の巻w
「朱里、俺…お前が好きだ」
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