第8話<親友>

 いつの日か、朱里が新居となる豊宅を訪れた。

「お邪魔しまーす」

「どうした?」

 玄関先で交わす会話。

「いや、何を持って行こうか迷ってたんで…とりあえず偵察に」

「そうか」

 そう言うと豊は朱里にスリッパを出し「どうぞ」と言う。

「ありがとうございます…」

「部屋、案内してやるよ」

 そう言う豊の後を着いて歩くとすぐがリビングになっていた。。
 広いリビングで対面式のキッチンもある。
 奥には窓があり、バーベキューができそうなくらい広いベランダさえある。

「見ての通り、リビングだ」

「わ。キッチン結構でかいスね…」

「そうだな」

「先生、自分で作れるの?」

 豊は黙ってしまった。
 おおよそ、朱里は豊が料理を作れないんだろうと予測した。

「朱里。あっちが寝室だ」

 今まで名字で呼ばれていたが、初めて?下の名前で呼ばれた気がした。
 それは生徒からちゃんとした女、嫁として見てくれているんだ。
 朱里はそう思い、笑顔になった。

 すると豊は朱里をベッドに押し倒した。

「…先生、最近おかしいですけど」

 それは朱里が学校でキスをされたことを思い出したからだった。

「そうか?
 でも、お前の方がおかしい。もうちょっとドキドキとか恐怖を覚えたりしろよ」

「え…でも先生だし―」

「俺も教師の前に男なんだ。何するかわかんねぇぞ?」

「いや、別にいいです。結婚するんだし」

 朱里はそっぽを向いて赤くなるのを隠した。

「ほーう。よしわかった」





「慶子!」

「うっさいなぁ!小松は黙ってて」

 また別の日、二人は河邑の家へと向かっていた。
 慶子は朱里の結婚を快く思っていないからだ。

 ピンポーン
 慶子はインターホンを鳴らし、住人・河邑豊を待った。
 数秒して、ガチャッとドアが開いたが河邑が何も言わない。

「朱里との結婚取りやめてください」

「…とりあえず中に入れ」

 まるで来ることがわかっていたかのように。
 彼は静かに慶子と小松を部屋へと迎え入れた。


 ソファに座った慶子は早速、話の答えを待った。

「で?何で結婚取りやめにしなけりゃなんないんだ」

「そんなの朱里の為に決まってる」

「俺は教師だ。信用ならないのか?」

 彼はコーヒーを飲みながら慶子を見据えた。

「そうじゃない。
 好きでもない奴と結婚して幸せなはずがないって言いたいの!」

「なら朱里に言えばいいんじゃないか?」

 河邑の“朱里”という呼び方が慶子は気に入らない。

「朱里に言ったって無理だから頼んでるんじゃない!」

「なら俺も取りやめる気にならねぇ。
 俺はあいつの意見を一番に聞いている。
 あいつがやめたいならやめればいい。
 ただそれだけだ。俺はあいつの意見に関して何も口出ししねぇ。」

 イライラした。
 それは慶子の本音だ。

 河邑の言葉はもっとも。
 朱里のことを考えているんだ…
 私は朱里のこと考えてないのかな?―

 慶子は悩んでしまった。





「朱里!」

「おう小松。おはよう」

 翌朝、二人は学校の廊下で出会った。

「実は、昨日慶子について行ったんだよ。」

「へ?どこに?」

「河邑の家」

 朱里と目を合さぬように小松が言った様子はどこか罰が悪そうだった。

「そう…」

「慶子はお前の為を思って!」

「わかってるよ小松。私達何年一緒にいると思ってるの」

 ふと笑う朱里は何も怒ってはいなかった。
 勝手なことしないで、そう言うと思ったのに―

 小松は安心した。

「慶子に会ったら伝えて。
 会社も救って、私自身も幸せになってみせるから―なれる気がするの」

 幸せに―



第九話…小同棲ーw
父が言い出した、一週間一緒に住んでみなさい。
それで朱里が豊を気に入らないと思えば結婚をとりやめにすればいいのだ。
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