第7話<新居> | ||||
それから二人はリビングへと降りた。 リビングには朱里の両親・真理と正志がソファに座っていた。 二人を見た正志が飲んでいたコーヒーのコップを置いて立ち上がった。 「これはこれは…豊クン…」 「お邪魔しております」 豊はそう言い正志に向かって頭を下げた。 「もう少しゆっくり二人でお話していらっしゃればよかったのに」 オホホホ…と上品に笑って言うその言葉は本気か、それとも冗談か。 娘の朱里にもさっぱりわからなかった。 「いえ、大事なお話がありますので」 「話とは何だろうか?」 正志が聞く。 「はい。僕と朱里さんの事なんですが」 普段、自分のことを『俺』としか言わない先生が『僕』というのは、やはり猫をかぶっているせいか。 朱里はこれについてはあまり突っ込まないことにした。 「朱里こっちにいらっしゃい」 真理が自分の隣に座るようにと促した。 朱里がそこに座ったのを見て、豊は申し訳なさそうに話を始める。 「私の父が勝手ながら家の用意と式場の手配をしてしまいました。 日取りは朱里さんの誕生日だそうです。今ならキャンセルができますが―」 「キャンセルしません。」 朱里の言葉に豊は正志に助けを求めようとしたが、正志は無言のままだった。 しょうがなく豊は朱里に向かってこう言う。 「真剣に考えてください。これからの人生に関わることなんです。」 「私は真剣ですよ。先生が結婚を嫌がるなら先生がお父様に断ってください」 「俺はそういうつもりで言ってるわけじゃ―」 豊は真剣に朱里のことを心配していた。 高校生で人生の岐路に立たされている。 もし俺だったらどうしただろう。 「私はもう心を決めています」 朱里はしっかりと豊を見据えて言う。 まるで豊の心配など必要ないと拒否したようだった。 高校生にしては、とてもしっかりとした娘だ。 本当に彼女が自分の嫁となったらどうなるんだろう。 豊はいつの間にか結婚するのが楽しみになっていた。 しかし、父親の正志が黙っているのが豊にとって難点だった。 父親は娘を嫁に出したくないのはわかるが、こう朱里が結婚を望んでいる。 豊が沢井家を去る際に、正志に声をかけられた。 「朱里は一度決めてしまえばもう意見を変えようとしないんだ。」 ただそれだけを言って去る正志。 彼は娘の結婚を快く思ってはいないようだ。 「義父さん。 俺、ちゃんと朱里さんを幸せにしますから心配しないでください―」 それを背で聞いた正志は振り返って豊を見た。 そしてふと笑った。 彼になら…朱里を任すことができる―かな。 それから数日が経ったころだろう。 学校の理科教師の部屋にて朱里は豊に新居について教えてもらっていた。 「とりあえずこれが地図だから。迷うなよ」 朱里は少し嫌そうな顔してこう言う。 「迷いませんよ」 「俺はもうここに住んでるから 少しずつ荷物を運ぶといい。いつからここに住むつもりだ?」 「え…うーん。どーしようかなぁ…先生はいつからがいい?」 今は一人暮らし状態の豊に邪魔にならないよう、いつからがいいか聞いたつもりだったのだが、その必要はなかったようだ。 「なるべく早く来てもらおうか」 豊は机の上に座り、朱里を引き寄せた。 「ぬわ…何をするんですか…」 「結婚すればもうお前は俺のもの―」 「…ジャイアンみたいスね」 「『俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの』てか?」 朱里は少し黙ってしまった。 同意してしまえば怒られてしまうような気がして― 豊はそんな朱里を見て頬にキスをした。 朱里は当然周りを気にして誰もいないということを再確認した。 「学校ですよ?!」 「おう、そうだな」 豊はにっこりと笑う。 朱里はそんな豊に驚いた。 「ばれたら…どうするんですか?!」 「…そうだよな。 お前との結婚バラしたいけど…職を失ったらお前を養っていけねぇしな…」 豊の『バラしたい』という言葉に驚いたが、『職を失ったらお前を養っていけない』という言葉には安心した。 ちゃんと私のことを考えてくれてるんだ― 「すいません…私の為に―」 「お前の為?結婚のことか?」 「うん」 「俺は俺の為に結婚するんだ。お前のためじゃない」 「ええ!何で私と結婚するんですか?!意味不明…」 「それはこれからゆっくりと教えていってやるよ」 ふふふふふ…ははははは… 豊はそんな不気味な笑いをした。 |
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第八話…親友の慶子は行動に…。 朱里を心配して、河邑に会いに行く。小松を連れて。
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