第6話<心配>

「佑太のことはもういいのか?」

 小松の何気ない、無神経な言葉に慶子は思いっきり彼の頬を叩いた。
 朱里はその光景に思わず笑ってしまった。
 二人は真剣だというのに―

「ハハ…慶子マジ叩きじゃん!」

「少しは俺の心配をしろよ!」

 腹を抱えて笑い続ける朱里に、小松が怒った。

 私は周りの人に心配されてるんだな…
 少なからず慶子には気を使わせている…朱里はそう思った。
 しかし彼女にとって、それは嬉しいのだが…嬉しくなかった。

 佑太というのは柳田佑太といい、小・中学校の間、この三人が共に過ごしていた男の子のことだ。

「佑太の事はもういいの。
 終わった事だし、心の傷も残ってないから質問したいならなんでもどうぞ」

 その言葉に小松は遠慮をすることなくこう質問をした。

「じゃあ聞くけど、二人はどうなってんだ?
 中学卒業して以来、連絡取り合ってないんだろ?」

「そうそう。連絡取り合ってないから、どうもなってないんだよ」

 笑って言う彼女は明らかにふざけていた。
 それに小松は怒った。

「でもお前ら付き合ってただろ!」

 あんなに仲良く四人で遊んでいたのに…

 中学を卒業して、佑太だけ違う高校に行ってから連絡は取らなくなってしまった。
 いや、『取らなくなった』より『取れなくなった』のが適切かもしれない。
 佑太の通う高校は進学校で勉強ばかりだ。
 だから遊ぶ暇もないのかもしれない―

「さあね。私もそう思ってたんだけどなぁ…」

 力強く言う小松に対して、またしても朱里はふざけていた。

「私、今度佑太に会って話しつけてきてあげる」

 慶子が我慢ならず思わず言ってしまったようだ。
 しかし、朱里は慶子の顔の前に手を出してこう言う。

「いや、今更掘り返さなくったっていいよ」

 え?
 慶子と小松の反応がそうだった。

「どういうことよ。決着はつけなきゃ」

「決着はついてるよ。私らは自然消滅ってやつなんだよ。
 それにさ、これから結婚って時にこんな話が先生の耳に入ったら迷惑じゃん?」

 今度の朱里の顔は頭のてっぺんにでも花が咲きそうなくらい満面な笑みだった。
 朱里の変わりように慶子は呆れる反面微笑ましかった。

 そんなに結婚がいいのか。
 それとも河邑が気に入った、もしくは好きになった…?

「自然消滅は一番決着のつかない終わり方だよな」

 頬杖をついて言う小松の無神経な一撃(一言)には朱里は何も言い返せなかったのだった。





 それから数日した頃だっただろう。
 豊が朱里の家を訪れたのは―

「すいません、突然お伺いして」

 豊はそう言いながら手土産を朱里の母・真里に手渡した。

「いえいえ。
 もうすぐ私の義理の息子になる人なんだからいつでもいらっしゃってください」

 手土産を受け取った真里はそう言いながらキッチンへ向かっていた。
 どうやらお茶の用意をしているようだ。

「そうそう、朱里から聞いてる?
 家事全般やってくれてるのよ。
 時々失敗はあるけどね。
 でも結婚した時にはもう完璧になってて安心できると思うわ。」

 真里はふと笑った。

 豊は周りを見渡し、真里の他に誰もいないことに気付いた。

「社長と朱里さんは?」

「お父さんは仕事なんだけど…
 朱里はまだ寝てるの。休日だからって…平日はいいんだけどね…」

 この時の時刻はもうそろそろ昼時という頃だった。
 真里は本当に悩んでいるようで、豊は内心笑ってしまった。

「じゃあ真里さん、起こしてきますよ」

「ごめんなさいね…
 私はお昼ご飯作ってるわ。時間があったら食べて行ってね」

「ありがとうございます。」

 豊はそう言って朱里の部屋へと向かった。

 河邑家は大きな家に大きな庭。
 その為、家事手伝いもいた。
 しかし沢井家は普通の家をちょっと高級にしただけで、河邑家とは偉くレベルが違う。

 そう感じた豊だったが自分の家よりも狭い沢井家宅のおかげか、すぐに朱里の部屋を見つけられたのだった。

 コンコンッとドアを鳴らし「入るぞ」と言い、豊は朱里の部屋へ入った。

 入ってすぐ横にベッドがあり、朱里はそこでぐっすりと寝入っていた。

「どんだけ寝れば気済むんだよ」

 そう言って豊は朱里がかぶっていた布団を剥がし取った。
 するとすぐに彼女は丸まり、少し布団を探すような仕草をしていたが、決して起きようとはしない。

 それにイライラしてきた豊が朱里の両頬をグッと押さえ遊び始めた。
 するとまるでタコのような顔になっていた。

「やっぱりお前は綺麗な顔してんな…」

 朱里の顔はタコの顔のまま。
 それでもそう思う豊は少しおかしいのかもしれない。

 朱里の髪をかきあげ、軽く口づけをした。

 すると、朱里が目を覚ました。
 まるで毒林檎を食べてしまった姫が王子様からのキスで目を覚ました某童話のように…

「…先生か…」

 豊を見てそう言う朱里は、また眠りに戻った。
 しかし、すぐに飛び起き自分の目をまん丸と見開いて豊を見た。

「…何でいるんすか?!」

 朱里の驚きようには豊も思わず笑ってしまった。

「ちょっと話があってな」

「あ…さいですか…」

 今さっき飛び起きたせいか、朱里の髪はボサボサだった。
 人気者のコイツが髪がボサボサでも気にしないやつって知ったら何人が嘆き悲しむだろうな。



第七話…朱里が新居を訪れるwのは第八話になっちゃうんですけど…
豊が本当に朱里と結婚していいのか、と朱里父に聞きに来るとこがメインですかね。
≪BACK TOP INDEX NEXT≫
TOPは、当小説『契約結婚』のトップページへ行きます。
INDEXは、我トップページ・COHENへ向かいます笑