第10話<告白>

 前、ベッドで押し倒されたとき豊は朱里に手出しをしなかった。
 朱里はその事を思い出したようで―

「結局、先生は私に手出ししないよ」

 ご飯を食べながら呟く朱里。

「ふーん。そう思いたきゃ思えばいい。やりたいときにやる」

 やる…
 朱里はその言葉に反応してしまった。

 そうか…同棲したら襲われる可能性は高くなるんだ…。
 しかも最近の先生は狂ってる。

 用心しなきゃな。

「とりあえず、お世話になります」

「フン。家のこと全部やってくれれば問題はないよ」

 ドS夫だな。
 手伝っては…くれなさそうだし。
 下手に期待してはダメだ。

「はい、頑張ります」

 ニコニコと心にもないことを朱里は言い、その場を終わらせたかった。

「よろしくな、朱里」



 ご飯を食べ終え、朱里は皿を洗っていた。

「朱里、お風呂入るか?」

「あっこれ終わったら―」

 朱里が豊の方を向くと豊はすぐ近くにいて、朱里に抱きついてきた。

「何なら一緒に入るか」

 豊はにっこりと笑った。

「うーん。それは嫌です」

「何だよ。冷静に断るなよ」

 少し拗ねている豊を見たが、放っておいた。



 豊が風呂から出て、朱里が風呂に入る。
 湯船に浸かる朱里はふと佑太のことを思い出した。

 小松の口から佑太の名が出てからというもの、ちょこちょこと気になっていた。
 中学を卒業して以来、顔を合わせていない。
 いや、卒業する前から佑太の様子はおかしかった。
 携帯のアドレスだって知っているのに…。
 なぜ音信不通になったのかわからない。

 そんなことを考えていると、朱里は既に風呂から出てパジャマに着替えていた。
 リビングに行くと、豊がソファに座っているのが見える。
 豊の近くまで行くと「早かったな」と言いながらタバコの火を消していた。
 それに眼鏡もかけていない。

「あれ先生タバコなんて吸うんですか」

「ああ。時々だけどな。…それに、俺のことなんて呼ぶんだっけ」

 そう言う豊は朱里の腕を引っ張り、自分の方に引き寄せていた。

「豊…ですけど、なるべくやめて欲しいです…臭い。
 ってか先生メガネかけてないと新鮮ですね!あんま見ないし…レア」

 内心ドキドキさせながらも朱里は冷静だった。
 普通だったら顔が赤くなるのを抑えている。
 それは豊も同じだった。

「だから豊って呼べよ。」

 俺は本当に自分の生徒を好きになっている。
 いい女がそう簡単に手に入るはずがない。
 そんなことはわかっている。

 早く自分のものにしたい。
 でも大切にしたい女。

 その二つが空回りするんだ。
 もしこいつに好きな男ができたら?
 俺はちゃんとあいつを手放せるだろうか。
 背中を押してやれるかな。

 そんなこと怖くて考えられない―

「豊?」

 優しくそう呼ぶ彼女を豊はギュッと抱きしめた。

 豊が朱里に抱きついた勢いで、二人はソファに倒れこんだ。
 豊の上に乗る朱里が「大丈夫ですか」と問うと豊はこう言う。

「お前、この状態になったんだから覚悟はできてんだろうな」

「はっ?!いぃぃぃやぁぁぁ…」

 朱里はすぐに豊から離れようとしたが男の力にはかなわなかった。
 結局豊は逃がしてくれない。

 じたばたする朱里を抱きかかえてベッドに連れて行く。
 豊は朱里を抱きしめてそのまま目を閉じた。

 予想外の展開で朱里は驚いたが、こんな一面を見せてくれたことを喜んだ。
 朱里も豊を抱きしめるとこう訊ねた。

「ねぇ、先生。私、家で豊って呼んでると学校でも言ってしまいそうだよ」

「お前はやっぱりばれるのが怖いか、それともただ単に呼びたくないのか」

「両者ともだな…」

 朱里はハハと笑った。

「お前はバカ正直だな。こういうときは嘘でもいいことをいうものだ」

「恥ずかしいんだよ。今まで先生って呼んでたのに…
 なんか突然結婚する相手になって、恋人みたいに下の名前で呼ぶんだよ…」

 朱里がそう言った瞬間だった。
 豊は彼女のあごを持って自分の方に向けた。
 そして―

 キス

 朱里の言葉に突然キスがしたくなった豊。
 唇を離して豊は彼女の表情を伺うと、少し恥ずかしそうにしていた。
 いつもは何か言う彼女だが、今回は何も言わない。
 それも真っ赤な顔をして―

「朱里…」

 朱里は豊に背を向けた。
 真っ赤な顔を見られたくない、と思ったのだろう。
 しかし、それはすでに見られている。

「朱里、俺…お前が好きだ。」

 豊は朱里を背から自分のほうへと引き寄せた。



第十一話…ついに登場!朱里の元カレ佑太。
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