第11話<元カレ> | ||||
朱里の誕生日は11月25日。 ということは、その日が結婚記念日となる。 慶子も小松もそれは聞いていた。 だからこそ、それまでにこの問題を解決すべきだと思っていた。 祐太という存在。 小松の家に慶子が夜、訪れていた。 親同士も昔から顔見知りで仲がよかった。 「小松も連絡とってないんだね…」 「朱里が取れなきゃ俺たちが取れるわけねぇだろ」 「祐太って…モテたよね…」 二人に嫌な予感がよぎる。 「良いじゃねぇか!朱里は結婚するんだし」 「でもちゃんと別れてないんだよ。 朱里は悲しむよ。街で他の女と歩いてたら… 私らまだ付き合ったことないけど…これぐらいわかるよね」 「…朱里はまだ佑太のこと好きなのか…?」 小松が呟くが慶子は聞いていない。 「ねぇ今度祐太の家か学校行こう!とりあえず会って話さなきゃ」 「俺らが口出していいのか?あいつら自身が解決しなきゃなんないだろ…」 「だって朱里は会う気ないんだもん! 私たちが取り持たなきゃ…逃げてばかりじゃダメだよ…」 佑太の家、柳田家。 彼の家は学歴を重視するエリート一家だ。 慶子がインターホンを鳴らす。 出てきたのは佑太の母。 「…あ、慶子ちゃんと小松君ね…」 「あの、佑太いますか」 慶子のその言葉に佑太の母は黙った。 「あの―」 もう一度佑太のことを尋ねようとしたが、聞こえないふりをされてしまった。 「帰ってください…うちの子は勉強で忙しいの…」 まるで、『あなた達とは違うのよ』と言っているように聞こえる。 確かに佑太は頭がよかった。 そして今は進学校に通っている。 しかし、つい1、2ヶ月前まで普通の友達だった。 朱里はどんなに寂しい思いをしたのだろう。 「せめて連絡だけ取らせてくださいよ」 慶子が言う。 その時、二人の後ろに佑太が帰って来ていた。 「ああ、久し振りだな!慶子も小松も…」 初めの声色だけ、とてもうれしそうだった。 久しぶりに会えて嬉しいというような感じだった。 しかし、すぐにその声色は変わってしまった。 …母親の前だから―? 「2か月近くも会ってないな」 小松が親しく佑太に声をかける。 しかし、彼は顔を逸らす。 慶子も小松も理由を理解した。 母親の前であるから、そうだと確信した。 「ゆっくり話したいんだけど…」 慶子が言う。 しかし、佑太は「悪い、忙しいんだ」と家の中へ入って行ってしまった。 そして、彼の母親がドアを閉めた。 二人はしばらくその場で立ち尽くした。 「佑太、勉強しなさい」 その言葉をもう一年は聞いた。 うるさいくらいだ。 俺はもう中学生の頃のように過ごしたいのに… 慶子や小松、そして朱里と一緒に… 楽しかったあの日に戻りたい。 俺がこうして勉強漬けの日々になったのは確かに受験がきっかけだった。 それに加えて、朱里と付き合っていることがばれた。 別に交際を隠していたわけではない。 朱里とは中学2年の頃から付き合っていた。 それまでばれなかったのは慶子や小松の存在があったからだろうか。 二人の関係がばれて、俺には何がいけないのかさっぱりわからなかった。 しかし、母の口調からそれはすぐにわかった。 朱里の家の「沢井家」という大金持ちの家であるからだった。 彼女の家は地元では有名な会社で、そこの娘である朱里と付き合っていたのがいけなかったんだ。 「でも好きになってしまったんだからしょうがない。 それにいいとこの娘と結婚できてうちだって鼻が高いだろう?」 母の志向をいいほうへと向かわせるが、母からは真逆の答えが返ってきた。 「恥ずかしいでしょう。 将来嫁になったら、あんたは逆玉の輿と言われるんだわ」 「何がいけない?」 「あんたもそれに見合う男になりなさい。 それか、諦めるかよ。どちらか選ばせてあげる、よく考えなさい」 どちらにしろ、勉強しろという意味だ。 結局、母は沢井の家を嫌っていたのかもしれない。 自分の家より格上の家であるから、ただそれだけ。 この家は勉強だけが取り柄だ。 優秀さだったら誰にも負けない― |
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第十二話…報告。 小松・慶子が佑太について話し合っていると河邑がその輪に入って来た―
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