第3話<対面>

 頑固な正志を何とか説得し、会うだけ会うという事になった。
 それが今日、日曜日だ。

「朱里!早くしなさい。もう相手方はいらっしゃってるのよ!」

 真里は朱里を焦らした。
 2階の朱里の部屋から出てきた彼女の姿は、綺麗だった。
 化粧をばっちりとさせられ、ワンピース、よくいえばドレスのような格好だった。

「何でこんな服なの―」

「未来の旦那様に会うのよ。第一印象を悪くしたらダメでしょう!」

 階段を下りて行く間、どうしてかはわからないが朱里は緊張していた。
 ちゃんと気に入ってくれるだろうか。
 気に入ってくれないと…困る。

 1階の応接間ともいうような部屋に河邑の人達はいるという。
 母は私の緊張など知らずか、もうコンコンとノックをしている。

 扉を開けて母は「遅れましてすいません」と言いながら頭を下げている。

「いえいえ」

 啓志、そして啓志の妻・理子は笑顔でそう言った。
 その隣が朱里の相手の男だということは消去法により、すぐにわかった。
 しかし、朱里は思う。
 この人…どっかで見た気が…するような。

 その男は足を組んで、タバコを吸っている。
 朱里は内心、何て態度の悪いやつなんだろう。
 そう思ってしまったが口にはさすがにできなかった。

 見たことのある顔…もしかしたら、普段はメガネをかけている…

「…先生?」

 その声に皆が朱里を見た。
 相手の男も私の登場には驚いていたようだった。

「嘘…こちら…先生…え?!」

 真里の言葉はもう単語でしかなかった。
 すると啓志の隣に座っていた理子がこう言う。

「確かに私の息子は高校で教師をしていますけど…―」

 誰もがまさかと思うほど…世界は狭すぎる。



 両親達は朱里と相手の男・河邑豊を置いてこの応接間を出て行ってしまった。
 やはり話し合いをしているのだろう。

 朱里の目の前には豊が座って、彼はタバコを吸い続ける。

「お前どうするんだよ」

「何がですか?」

 朱里は冷静に聞き返す。

「話は大体理解してるよ。
 俺と結婚しねぇと、お前んとこの会社が潰れるんだろ?」

「はい、そうです。なので結婚してください」

 朱里は何も迷うことなく言葉を並べた。
 それにはさすがの豊も驚き、タバコを置いた。

「高校の教師と結婚して、ばれたら大変なことになるんだぞ?」

「大変な事になる前に離婚すればいい」

「嫌だね。俺はそう簡単に×をつけたくない。」

 要はバツ1にはなりたくないようだ。
 …結婚することについてはこの人はどうでもいいのか?
 そう思いながら朱里は豊を見ると、また置いていたタバコをまた手に取っていた。

「でも結婚してくれないと困るんで、お願いします」

 朱里の言葉に豊はフッと笑い、こう言う。

「じゃあお前、ここ来い。」

 豊が自分の隣に来るように指示した。
 朱里はその命令に素直に応じ、座る。

「何すか」

 朱里は横を見ると、豊がとても近いことに少し驚いた。
 隣なのだから近いに決まっているのに…

 朱里が軽く疑問を投げかけると、豊はゆっくりと朱里の体を押し倒した。

「お前も高校生なんだから、これぐらいの事することわかるだろ?」

 豊はタバコを手にしたままだったが、一服するとすぐにタバコを消した。

 え?え?え?!
 朱里はその行動に驚いたが表面上は冷静を保った。

 そんな朱里を知ってか知らずか、豊はそのまま軽く口付けをした。
 された本人は押し倒されたまま呆然と固まっている。

 それを見た豊は少々罪悪感が募った。

「タバコ臭い」

 しかし豊にとって朱里の言葉には全く、青筋が立つ思いだった。
 自分のキスがその一言で片付けられたことに腹が立つ。
 それに罪悪感が募ったこの優しい自分が可哀想過ぎる。

 そんな事を思っている豊と押し倒された朱里には、ドアに立つ両親共が目に入る事は数分以上なかった。



第四話…婚姻届…にサインしちゃいますよw
未成年?は結婚する時、親の承諾が必要ですもんね。
本当に正志を説得しなきゃ、結婚できないんですよね。
それにしても押し倒されちゃったの親に見られるって…キスしてるの見られるって嫌ですよね…。
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