第13話<告白>

 佑太は心の中で泣いた。

 愛していた女が法律上、他の男のものになる。
 嫌でしかたがない。
 しかし、どう足掻いても仕方がないと思った。

「佑太!これは自業自得だぞ」

「小松、相手の男はいい奴か?」

「たぶん、朱里を好きなんだと思う」

「何だよ、たぶんって」

「あいつが結婚するのは会社の為なんだ」

 佑太は小松を見た。
 小松の顔はとても冗談を言っている顔ではなかった。

「意味わかんねぇ!」

「相手の男は悪いやつじゃねぇし、朱里がこの結婚を一番望んでる。俺は止める気ないよ。」

 嘘だ、佑太はそう思った。
 朱里が一番結婚を望んでいるなんて考えられない。

 佑太は沢井家へと急いだ。



 インターホンを鳴らす。
 出てきたのは朱里の母・真理だった。

「あ…あら、久し振りね…朱里に用かしら…」

 真理は朱里と佑太が付き合っていたことを知っている。
 そして朱里の寂しさも知っていた。
 真理は佑太とどう接すればいいのかわからなくなった。

「朱里に会いたいんです!」

「ごめんなさい、朱里は今ここにはいないの」

 未だ朱里は一週間の小同棲中だった。

「どこにいますか?!」

「佑太君、もう朱里には会って欲しくないわ。
 こんなこと言いたくないんだけど、朱里はもうあなたに会いたくないと思うわ…。」

「朱里に見合う男になったのに!」

 佑太はそう言葉を吐いた。
 その言葉に真理は驚いた。
 何か…事情があったのかしら?

 背を向けて帰ろうとする佑太を真理は制した。

「お待ちなさい、一度朱里に聞いてみます。後々、小松君に伝えてもらえばいいかしら」

「は…はい!」

 佑太は喜んで、帰って行った。

 真里は悩んだ。
 どうやってこの話を朱里に切り出せばいいのか。
 しかし、約束したのだからちゃんと話をしなければ。

 真里は携帯を取り出し、朱里宛にメールを送った。



 携帯の音が鳴る。
 浅く寝ていた朱里がそれに気づき、見れば母親からのメールだった。
 隣で豊が眠っているのを朱里は起こさないよう注意していた。

 母親からのメールはこうだった。

 明日家に寄りなさい。話があります。

 何だろう。
 朱里はそう気にしてはいなかった。





 朝早く朱里は眼を覚ましてしまった。
 隣で眠る豊を揺すり起こす。

「珍しいな…お前が俺より早く起きるなんて…」

 そう言って豊は起き上がろうとはしない。
 朱里は何となく豊に抱きついた。

「どうした?」

「恥ずかしいけど…私も先生が好きになってきた。
 普段はメガネをかけてすんごい怖い先生だったのに…
 家じゃ甘えん坊にしか見えないし、それがすごく可愛いし…」

 半分朱里の言葉が嫌味に聞こえたが豊は嬉しく思った。

「先生、心臓がバクバク言ってるよ」

 上体あげて豊を見て朱里が挑発的に笑う。
 するとすぐに唇を奪った。

 最近、先生は何かとキスをするな。
 朱里は思った。

「昨日は悪かった。お前を失うのが怖かったんだ」

「何言ってるの?私はどこにも行かないよ?」

 朱里は豊の手を握った。

「そんなの…わかんないだろ」

 朱里が佑太の話をしないのは俺に心配をかけないようにと思ってのこと。
 豊にはそれがわかっていた。

 佑太に再会すれば朱里は佑太のもとへ帰る…。
 朱里が本当に愛してるのは佑太だ。
 例え会社の為と言えどもこの結婚はなくなる…。
 豊はそう思った。

「ねぇ、豊。今日は弁当作ろうかなー」

 ニッと笑う朱里。
 こうしていられるのも今だけかもしれない。
 朱里の言葉はとても嬉しかった。

「ああ。今までだって作って欲しかった。」

「何でも言って!対応していくよ」

 朱里は起き上がり、笑った。
 豊はふと思う。
 さっきコイツ…さらーっと"豊"って呼んだよな…。

 朱里はベッドから降りて台所へと向かっていた。
 その背を見る豊の顔に笑みが浮かんだ。



 弁当を作る朱里。
 冷凍庫を見れば少し冷凍食品があった。

 うはっ奇跡じゃん。
 朱里は思った。

 冷凍食品を少し弁当箱に詰め込んだ。

 もちろん、金持ちのこの家は対面式キッチン。
 豊がリビングのソファで新聞を読んでいるのも丸見えだ。
 その姿に朱里は思わず言った。

「本当の夫婦みたい。何か嬉しいな」

「何だ、素直だな」

 朱里がコーヒーを豊に出すと彼はそれを口に運んだ。
 豊もまんざらではない。

「だって…両想いなんだし。先生、こないだ私のこと好きって言ってくれたじゃん」

「お前も俺のこと好きって言ったな…今朝」

「先生は嬉しくないの?好きな人と同じ気持ちって嬉しくない?」

「そりゃ嬉しいさ…」

 朱里の好きは愛とは違うんじゃないか。
 豊はどうしても疑ってしまう。

「そういやーいつも昼食は先生は先生同士で食べてるの?」

「だいたい出前が届く職員室で皆食べるけど、新聞あるし」

「ふーん。そりゃあんな部屋に一人ずっといてもコミュニケーションとれないもんね」

「まあな。でもあの部屋は結構いいぞ。
 理科室の隣にあるだろ?アルコールランプが結構使えるわけよ」

 朱里は笑った。
 ふと時計をみると、そろそろ時間が押している。
 キッチンに戻り、弁当を包む。

「そろそろ学校行く準備しないとね」

 豊は時計を見た。

「そうだな」

 豊は立ち上がると、朱里が言う。

「ねぇ、今日ちょっと帰るの遅くなる…
 母さんが今日家に寄りなさいって。よくわからないけど…豊も来る?」

「いいよ、俺は。家族で楽しんどけ」

 朱里は笑顔でうなずいた。



お久々でございます。
いやーこれからも頑張って書きます!
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