第1話<真実>

 私が、今まで知らなかった事。

 知りたくなかった事。

 それが今、知らされた。


「貴女にはお兄さんがいるのよ…お父さんが…どこかで―」


血が半分しか繋がらない兄の存在。





 松尾美咲。高校2年生。

「松尾?」

 教室の机に突っ伏している美咲が顔を上げると、目の前にクラスメートが立っていた。

「さっきからボーっとしてるぞ」

 笑顔が似合ういい男。

 美咲の学校では人気の男子学生だった。
 名前は橋川充。

「あ、うん。」

「何かあったのか?」

「ううん。何もないよ」

 美咲はめったに声をかけられたことのない充に笑顔を向けた。

「悲しい事でもあったのかな、と思ってね」

「え…なんで?ないよ…悲しい事…」

 まさか充に当てられると思ってはいなかった。

 悲しい事―

 他人にわかるほど沈んでいたのかと思うと、美咲は昨日の話を思い出してしまう。

 美咲が生まれる前に自分の父親が浮気をしていた挙句、自分よりも年上の子供を作っていただなんて…

 やっぱり悲しい事なんだ、と美咲は思う。





「ね、美咲。さっき橋川君と何話してたの?!」

 友達の詩織が問いかける。

「え…?あ、何にも。世間話だよ」

 そうだ、この子は橋川君の事が好きだったんだ。
 美咲は思い出した。

「世間話…橋川君と世間話!!いいねー!!いいなぁ…」

「詩織、好きだもんね」

「やっだーこんなとこで言わないでよー!!」

 恥ずかしがっている詩織が可愛いと思う美咲。

「橋川君て人気なんだね」

「あの笑顔いいじゃん!」

「そうなんだ。」

 美咲にとって充は特に興味がなかった。
 今はそれどころじゃないこともある。

「もうちょっと興味示そうよ」

「…示してるよ」

「全然だよッ」

 まさか、この幸せがすぐに消えてしまうとはこの時の美咲は思いもしなかった。





「ただいま」

 その日、いつものように美咲が松尾家に帰ってきた。

 しかし、母の『おかえり』の声はなく、母はただ申し訳なさそうに「美咲…」と声をかけるだけだった。

「母さん…?どうかした?」

 リビングに入って行くと見たことのある顔があった。

「―橋川君?」

 どうして?
 橋川君がどうして家を知っていて、ここにいるんだろうか。

「おかえり。美咲ちゃん・・・・・―」

 おかしい。
 美咲は勘ぐった。

 いつもの笑顔が充にあるが、おかしい。
 美咲にはそれが…不気味に見える。

「どうして橋川君がうちにいるの?」

「どうして、って。僕は君の―」

 充のふと笑う顔が怖い。
 目は絶対に笑っていないのだ…。

「美咲!!とりあえず座って。お茶でも飲みましょう」

 和美が言う。
 美咲にはそれがわざと話を逸らしたようにしか見えなかった。

「そんなのんびりする話じゃないでしょう?」

 和美は充の言葉など聞かず、キッチンで作業する。
 美咲が見る限り、手が少し震えているようだ。

 充を交えたところで、母の恐れるような話をするのだろうか。
 美咲には全てが謎に感じる。

 3人はソファに座り、話の準備が整った。
 少しの沈黙を和美が破り話を始めた。

「私から話します」

「うん」

 美咲が相槌をうつ。

「美咲。この前、話したわよね…貴女に異母兄妹が…って」

 美咲は横目で充を見た。
 充の前で…クラスメートの前でその話はして欲しくなかった。
 美咲はそう思った。

「うん」

 だから考えてなかった。
 まさか、クラスメートの橋川君が―

「そのお兄さんが…この人なのよ―」

 私の兄だなんて…


「え…だって『兄』って…年上ってことでしょ?!」

 歳だって兄と聞いていたから年上だと思っていたし―

「美咲。同学年でも年上には変わりないだろう?」

 充は目の笑わない不気味な笑顔でそう囁く。

 そりゃそうだ。
 詩織から充の誕生日を聞いたことがある。
 もう忘れてしまったが私より早かったはずだ。

「やっぱり美咲には言ってなかったんですね。本当に幸せに育てられたんだね。」

 その言葉は重く、美咲の心に突き刺さった。
 幸せに育った妹への嫉妬。

 美咲はこれから不幸になることを予感した。






 その後、充は松尾家をあとにした。

 俺の父親であり、美咲の父親でもある松尾健史―
 逃げているのか。
 俺を不幸にしたあの男を、今度は俺が不幸にしてやる。

 彼は自らの父親・松尾健史に復讐を誓った。



初作品・兄妹愛読んでいただきましてありがとうございます。
誤字脱字などございましたらなんなりとMAILしてくださいましw
第二話…疑い…充はやっぱり美咲が憎いんです…。
同じ父親なのに今までの生活の差があって…美咲を不幸な目に遭わせたい―
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