第15話<再会>

 朱里は、豊の手を握った。

「何言ってるの?それは豊が苦しむんだってわかってる?」

 豊は無言だった。

 この人は本当に私を好きでいてくれてるんだ、と朱里は実感した。
 だからあんなことを言って、私を手放さない。
 この人を、豊を苦しめてはいけないと思った―

「私、会いに行ってくるよ」

 何も言わない豊はずっと下を向いている。
 朱里は豊の頭をなでた。
 そのまま向かい合って豊の膝に座った。

「早めに、会えたら会って話つけてくる。
 私もこのままじゃダメな気がしてたからさ、心配することないよ。」

「嫌だ」

 豊は駄々をこねた。
 朱里は困ったが、少し立ち自分の胸に豊の頭を引き寄せた。

 豊はそれが嬉しかったが、態度では示さなかった。
 朱里の心臓の音がすぐに聞こえる。
 俺と一緒で朱里もドキドキしているんだと安心できた。





 可愛い大きな子供―と思ってしまったのは事実だ。

「朱里?」

 小松だった。

「あ、ごめん」

「いいことでもあったのかよ。」

 小松が朱里の前の席に座る。

「い、いや。あのね、佑太に会いたいんだけど…」

 小松は驚いた。
 やっと佑太に会う決心がついたんだと喜んだ。

「よし!今日にでも会うか!」

「佑太は今日予定ないの?」

「知るか」

「絶対に今日だ。お前の気が変わらないうちにな」

 小松は早速廊下に出て電話をかけ始めた。
 もちろん相手は佑太であろう。


 電話をし、帰って来た小松。

「ばっちり今日でいいってよ!!これでお前も心おきなく嫁いでいけるな!!!」

 佑太は喜んだ。

「そうだね…」

「俺らもついてくから安心しろ」

 元気のなさそうな朱里に、小松が声をかけた。
 すると朱里は言う。

「ううん、一人で行く」

「朱里…」

「あんた達には…迷惑かけてばっかだし」

 小松は驚いた。

 すると、そこに河邑が入って来た。
 授業時間を知らせるチャイムが同時になる。

 元カレに一人で会いに行くということを河邑に伝えるべきか、と小松は悩んだ。
 こういうことはやはり朱里が伝えるべきだろうか…。
 それが隙であったのか、河邑と目が合い、なぜか見抜かれてしまった気がした。





 何時にどこで待ち合わせか小松に聞いて朱里は向かう。
 ベンチに座り、彼を待つ。
 怖い反面、少しドキドキしていた。
 早く会って、早く帰りたいのだ。

「朱里…」

 その声で、ハッと顔をあげた朱里。
 瞬時に立ち上がった。
 もちろん、そこには佑太が立っている。

 懐かしい顔だった。
 本当に久しぶりで、今までの悲しみがふと込み上げてくる。

「どうして…今まで連絡くれなかったの?
 ずっと待ってたのに…なのに今になって突然会いたいなんて…」

「正直に言うと、お前が結婚するとかいうからだ。
 俺以外と結婚なんて考えたことなかったし…誰にも渡したくない」

 佑太の眼は真っ直ぐ朱里の眼を見つめている。
 朱里はその真っ直ぐな目に心打たれた。

「でも、私はもう結婚することを決めたの
 婚姻届も書いたし、あとは出すだけ。
 佑太、私達タイミングが合わなかっただけだね…私達正式に別れよう」

 そういうと朱里は背を向けて去ろうとした。
 しかし、佑太がそれを止めた。

「待てよ」

 朱里は振り返る。
 佑太は表情変えず、朱里を見る。

「もう終わりにしようよ…」

 目をそらしながらだが、朱里が言葉を続けた。

「結婚なんて知るか。
 何勝手に決めてんだよ!!まだ俺達別れてないだろう?
 お前に会いたくても会えなかった俺の気持ち考えたことあんのか?」

「佑太も私の気持ち考えたことあった?
 連絡つかなくなってから、何かあったのかなと思って家に行ったり。
 学校に行って見ても、佑太は元気に笑ってたし…本当に今まで何してたの?!」

 朱里の怒りは頂点に達していた。

「…お前に見合うように…
 恥のないように自分を磨いていたって言えばかっこよく聞こえるか?」

「え…?」

「お前の家と俺の家とじゃとても釣り合わないだろう?
 俺だって何か恥じないようにお前の家に見合うようになりたいじゃないか」

 朱里の心が揺れたのは事実だ。
 自分の知らない間に佑太が私の為に努力をしていた…なのに私は何をしていた?

「朱里、俺はお前のこと今でも愛してる…お前は俺のこと、もう愛してないのか?」

 愛す…
 私は一体誰を愛している?
 私は誰を一番恋しく思っている?

 ふと豊の顔が浮かんだ。

「わかんないけど…今一番会いたいのは豊だ…」

「"豊"?…新しい男?…結婚相手か?!
 まるで政略結婚のようだと思っていたのに、その相手に恋心を抱いてるなんて…」

 佑太の言葉が嫌味に聞こえた。
 恋心を抱くのは私の勝手でしょう…?
 佑太に関係ない…

「ごめん…帰る…」

 朱里は足早に去った。
 佑太が何度声をかけても今度は振り返ることはしなかった。



久々すぎる更新ですいません…汗

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