Bitter...&SWEET

 あれは本当に苦い思い出だった。

 どうも、矢川眞緒と申します。
 バレンタインというのはなぜあるのでしょうね。
 キリスト教でもないのに…ん?バレンタインは宗教と関係があるのか。
 知りませんけども。

 思い返せばチョコと私の歴史は小学校から始まる。

 その小学生の頃。

「眞緒ちゃんは誰にもチョコ渡さないの?」

 そう言った子は何気なーく私に聞いたのはわかるさ。
 で、私はこう言った。

「だってチョコ渡したら自分の気持ちばれるじゃん」

 はい。これバレンタイン・デーがある意味がないですよねー。
 知ってますよ。
 バレンタインというのは好きな人にチョコを渡す日でしょ?
 でも小学生がチョコ渡してどうするの。
 自分の気持ちがばれてどうするの?
 当時は本当に、純粋にそう思ってた。

 それから一度も私はチョコを渡していない。
 やがて大学1年になってしまった。

 自分でも自分が腐ってると思う。
 今まで自分は誰とも付き合ってないし。
 要は告白してなきゃされてもねぇってことで…

 でも不幸ではないのは事実。
 今まで男がいなくても生活はできた。
 家族さえいればいいのさ。

「眞緒、あんた彼氏いないの?」

 母は言う。
 いてどうする、私の本音。
 でも焦ってるのも事実だった。

 姉はキッチンでチョコを作る。

「私の分もあるよね!」

 毎年私は言う。
 自分は男か、と疑う時もある。





 苦い思い出、それはあの時だと私は思う。
 中学2年、私に珍しく好きな男ができた。
 特に理由はなかったが、たぶん自分に優しかったから好きになったんだろう。
 その男の名は川谷隆志。
 特にかっこいいわけでもない、本当に平凡な男だ。

 それでバレンタイン・デーが近づいた頃、何となくスーパーのチョコ売場で立ち止まった。
 チョコをあげるべきか?
 そうして私は数分悩んでいた。

「あれ眞緒ちゃんじゃん!」

 その声に私は振り返った。
 誰かと思えば同級生の由美ちゃんだった。
 ちなみにこの由美ちゃんは学校中で嫌われている。
 自己中とか言われてる。
 まぁ確かに発言的にKYだし、しょうがないか…。

「由美ちゃん」

「眞緒ちゃんもチョコ買うの?誰か好きな人でもいるの?!教えて教えて!」

「いないよ…」

 ってかもし教えたとしても、どうする。

「えー。私は三島君に…あげようかなぁって」

 いや、聞いてないし。
 どうせ後々噂で流れてくるからなぁ。
 私はそう思いながら彼女の言うことを受け流しておいた。

 ちなみに三島君というのは三島博之という同級生。
 彼は結構不良な部類に入る方ですね。
 皆、あまり好印象は持っていない。
 でも仲間に愛されるたちだな。と自分では思いますわ。

 そしてバレンタイン・デー。

「眞緒、由美ちゃんって三島にあげるんだって知ってた?!」

 由美ちゃんは自分で言いふらす。
 どれだけ自信家で、どれだけ自分が嫌われてるかわかってないのがすごく尊敬するわ。

「うん、聞いた」

 何人かそれを聞いて勇気あるよね!という。
 まぁよく考えれば三島にあげるのは勇気がいることだと思う。

「へぇ。あんたは、あげるの?」

 その時、ドキとした。
 友達は私に好きな人がいて、川谷君であることも知っていた。

 それに、ドキッとした理由はほかにもあった…。
 あの時買っちゃったんだ、チョコ。
 眞緒は少し考えて言う。

「食べる」

「は?」

「私はあげる側じゃなくて食べる側がいい」

「んな希望聞いてねぇよ」

 そうして友達は私の頭を大々的に叩いて去って行った。



 そして放課後。
 これは後から聞いた話だけど、由美ちゃんはこんなことがあったらしい。

 学校のとある廊下で三島は由美ちゃんからチョコを受け取った。
 その直後。開いてた窓めがけて外に勢いよく投げた。
 由美ちゃんは口を開けたまんまだった。
 要は開いた口がいつまで経っても塞がんないわけだね。

「誰がてめぇからもらうか」

 三島君はそう吐いて行ったらしい。

「三島君!誰からもらいたいの?」

「矢川かな」

 三島君はふと笑って去って行った。
 矢川、すなわち私のことだった。

 私は知らずにドキドキとクラスで川谷君に渡そうか渡すまいかぐずぐず悩んでた。
 友達はもう部活へ行ってしまった。
 川谷君以外全員さっさと部活行きやがれと思うがなかなかうまくいかなかった。

 そこへ由美ちゃんが帰って来た。
 私を見ると不機嫌になった。

 由美ちゃん、こ…怖えーーーー
 …でも私、別に悪いことしてねぇーしー。
 もー、とにかく早く全員消えろー。

 由美ちゃんは何を思ったのか、カバンからもう一つチョコを取り出した。
 私は首をかしげて行動を見守った。
 由美ちゃんの行く先は…ぬあ川谷君だ…。

「これ、もらって」

 三島はフェイント…と思いながら川谷君を見れば、嬉しそうだった。
 その時、私の恋は終わったと思った。


 あれからバレンタインが嫌いだ。
 目の前で好きな人にチョコあげているのを、ただ私は見ていた。

 あの後、川谷君と由美ちゃんは付き合いだした。

 三島君にあげるっていってたのに、レベル下げたんだ?
 という声が翌日から聞こえてた。
 私は中学卒業するまで茫然と過ごした。





 そして5年経った今、私はまた同じスーパーのチョコ売場に立っている。
 今年は好きな人もいないのに。

「あれ眞緒じゃん!」

 見ればあの忌まわしい由美ちゃんが立ってる。
 別に由美ちゃんは悪くない。
 自分の好きな人も言ってなかったし、由美ちゃんが本当は川谷君が好きだった可能性もある。

「由美ちゃんか」

「ごめんね、今だから言える話だけど」

 由美ちゃんは突然話はじめた。

「何?」

「実は私、眞緒が隆志のこと好きなの知ってたの」

 隆志って誰?と思えば川谷君のことか―
 ぬあに?!と思ったが、もうどうでもよかった。
 自分がそんなに川谷君のこと好きでもなかった気がしてるし。

「いいよ、もう過去の話だし」

「…そっかありがとう」

 由美ちゃんはチョコを買って去って行った。
 彼女の話題はたくさん聞く。
 川谷君とはとっくの昔に別れて、高校に行ってからもいろんな男と遊んでいた。

 それにしてもショックはショックだ。
 自分の好きな人がばれていたなんて―
 私はチョコも買わずスーパーの外に出た。

 するとそこに懐かしい顔があった。
 そう、三島だった。
 今日は懐かしい人にばかり会うな。

「久しぶりの顔だな」

「久し振り」

 中学の頃、何回か会話した。
 私のことよく覚えてたなぁ。

「茶、飲もうぜ」

 そういう三島君は強引に喫茶店へ私を連れてった。

「俺、卒業したんだぜ」

「何を?」

「族」

 私はぶっと口から水を勢いよく吐き出してしまいそうだった。
 族に入ってることすら知らなかったし…。

「そう…なんだ」

「マジで、矢川は面白いな」

「何が?!」

 まだ数秒しかしゃべってないぞ?

「俺、中学の時お前のこと好きだったんだぞ」

 私は眼を丸くした。
 マジであり得ない構造だよ。

「…」

 私は驚きで声が出なかった。

「お前、今付き合ってる奴とかいるの?」

「いないよ。
 ちょっと聞きたいんだけど何で私のこと好きだったの?」

 真剣に理由が知りたかった。

「だって面白いし猫かぶってねぇし。
 いないなら付き合ってくんねぇ?いても付き合ってほしいけど」

「ちょいちょい待って。よく考えて言ってよ…」

「考えてるよ。
 俺、いろんな女と付き合ったけど何か物足りなかった。
 やっぱりお前みたいな面白いのがそばにいたほうが毎日楽しいしな。」

 なんか軽い。

「三島は今大学通ってんの?」

「おう」

 聞けば自分も知ってる一流大学だ…。
 そういえば頭は良かったんだ。
 だけども不良になっちゃったんだ、家庭環境が悪いのか?

「俺、今マジでマジメな男なんだからな」

「嬉しいんだけど…もう帰るわ」

 どーせ冗談だろう。
 そう思って私は会計をしていた。

 すると後ろから三島が金を出した。

「おごるよ」

 そう言って会計を済ませて私を喫茶店の外に出した。

「割り勘にしよう。おごってもらっちゃ困るし」

「嫌だ。割り勘にするともう会えない気がする」

 若干わがままな気がしたのは気のせいですか。
 まあいいや。おごってくれるならおごってもらおう。

「おごる代わりに、今度デートして」

「は」

「どっかに出かけるだけ」

「…まあそれは構わないけど」

「よっしゃじゃ携帯教えて」

 三島はふと笑った。
 この笑顔が少し可愛く思えたのは私だけですか…?!

「明日何の日か知ってる?」

「あーバレンタインだね」

「会いに行く」

 明日のバレンタインは甘い思い出になるかな…。


終わり
突発的に作りましてしかも長い。
ぬーん
しかもバレンタインが終わった後に完成したという。
まったく考えてませんよ自分。時間配分がなってない!
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